そのころ、世に数まへられぬ古教授ありけり。

この翁 行方定めず ふらふらと 右へ左へ 往きつ戻りつ

11月29日(火)古書目録

2016年11月28日 | 公開

  関西の、とある古書店街の販売目録が届いた。早速目を通すと、まずは芳艶筆の美麗な錦絵三枚続きに目が止まった。それから、金曜の演習の関連資料、明治、大正、昭和の文献が、まとめて15,000円!ちょうど荊妻が帰宅したので、長唄関係の一括ものをお教えすれば、あら、欲しいわぁとのたまふ。最近は、長唄を研究しておいでだからな。

  で、まだ閉店時間前だったので、電話すると、3点とも取れた。関西の目録は、手遅れになることが多いが、今般の獲物は、競争相手は、まずいないだろうという分野である。自分にとってのたからものは、他人も宝とは限らない。これを数寄と申すが、現代風に言えば、オタクに他ならない。


11月28日(月)二十四首

2016年11月28日 | 公開

独り住む 母の不調を 聞くからに ものも取り敢へず 飛びておもむく
自活して 生きゐることに かまけたり 我の迂闊は さは さりながら
たらちねの 母のみ足を さすりつつ うべなひ難き 事を告げやる
倅一人 娘が一人 ひと日かけて 親に強ひたる 今 できること
諦めて くれつつあるを うれしと思ふ 心の奥の にがくもあるかな
生を享け やそとせあまり 暮らしぬる 街を捨てしむ たちまちにして
心には 受け止むる間も あらばこそ やがて捨て去る このふるさとを
老いてゆく 母のいませば 遠からず この日来べしと 思ひしものを
仏壇に 父の位牌は 残し置きつ 持つに及ばずと 母のたまへば
燈明は 点けたるままに せよといふ 言葉のままに 消さず来にけり
生ひ立ちし 家のめぐりの 空き土地を 吹き抜ける風の 音の寂しさ
搭乗の 待ち合いのテレビ 子と父が 心中と告ぐ 介護疲れに
母のめす おものと思ひ ひと口に 切り揃へたり 朝餉の支度
鶏レバー 身によしと聞く 築地なる 店に求むる 上モツ三百
口に合ふと そもことわりか 我が味の 元尋ぬれば 母の手料理
ほんたうに 誰かとご飯 食べるのは うれしきことと 母はのたまふ
父逝きて 十と四年を 独りきりで 食したためて 摂りて来たれば
ご飯どきに 話出来るは 仕合はせと 同じ話を 繰り返しゐる
いかばかり 寂しかりけむ 何ひとつ 我をば怨む 事は聞かずも
おのが為 作りてくれる 皿の数を だんだんと言ふ お国の言葉
だんだんと 母のたまふ 面映ゆし ともに暮らしし 日は乏しくて
友がきも うからやからも 消えゆきて ゆかりは薄く なりもてゆけど
ふるさとを 喪へる人 あまたあらむ 我そのつらに 入りぬとおぼゆ
我が松江 我が鎮魂の 地と願ふ 事むなしくも なりはてぬめり
しみじみと しじみの汁を 吸ふ時し 身にしみしみて 松江は恋し