夢発電所

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宮沢賢治著「貝の火」に角(食)パンが題材に

2011-04-30 10:04:43 | 私の本棚
 狐が又向ふから走って来ました。そして
「さあおあがりなさい。これは天国の天ぷらというもんですぜ。最
上等の所です。」と云ひながら盗んで来た角パンを出しました。

 ホモイは一寸たべて見たら、実にどうもうまいのです。そこで狐

「こんなものどの木に出来るのだい。」とたづねますと狐が横を向
いて一つ「ヘン」と笑ってから申しました。

「台所といふ木ですよ。ダアイドコロといふ木ね。おいしかったら
毎日持って来てあげませう。」

 ホモイが申しました。「それではね毎日きっと三つづつ持って来
ておくれ。ね。」

 狐がいかにもよくのみこんだといふやうに目をパチパチさせて云
ひました。

「へい。よろしうございます。その代り私の鶏をとるのを、あなた
がとめてはいけませんよ。」

「いゝとも」とホモイが申しました。



 すると狐が
「それでは今日の分、もう二つ持って来ませう。」と云ひながら又
風のやうに走って行きました。

 ホモイはそれをおうちに持って行ってお父さんやお母さんにあげ
る時の事を考へて居ました。お父さんだって、こんな美味しいもの
は知らないだらう。僕はほんたうに孝行だなあ。

 狐が角パンを二つくわいて来てホモイの前に置いて、急いで「さ
よなら」と云ひながらもう走っていってしまひました。ホモイは
「狐は一体毎日何をしているんだらう。」とつぶやきながらおうち
に帰りました。

 今日はお父さんとお母さんとが、お家の前で鈴蘭の実を天日にほ
して居りました。

 ホモイが
「お父さん。いゝものを持って来ましたよ。あげませうか。まあ一
寸たべてごらんなさい。」と云ひながら角パンを出しました。

 兎のお父さんはそれを受けとって眼鏡を外して、よくよく調べて
から云ひました。

「お前はこんなものを狐にもらったな。これは盗んで来たもんだ。
こんなものをおれは食べない。」そしておとうさんはも一つホモイ
のお母さんにあげやうと持っていた分も、いきなり取りかへして自
分のと一諸に土に投げつけてむちゃくちゃにふみにじってしまひま
した。

 ホモイはわっと泣きだしました。兎のお母さんも一諸に泣きまし
た。

 お父さんがあちこち歩きながら、
「ホモイ、お前はもう駄目だ。玉を見てごらん。もうきっと砕けて
ゐるから。」と云ひました。

 お母さんが泣きながら凾を出しました。玉はお日さまの光を受け
てまるで天上に昇って行きさうに美しく燃えました。

 お父さんは玉をホモイに渡してだまってしまひました。ホモイも
玉を見ていつか涙を忘れてしまひました。

          ※

 「貝の火」の3回目です。ホモイが貝の火をもらってから、3日
目と4日目のできごとです。

 前回の「鈴蘭の実」に代わって、今度は「角パン」が登場します。
狐が盗んできたものですが、これは「食パン」のことのようです。

 食パンは型に入れて焼きますが、型にフタをして全体が四角くな
る角型のものと、フタをしないために上部が膨らんでいる山型のも
のがあります。

 その角型のものを「角パン」と言っているのだと思います。「最
上等の所です。」と言っていますので、中のしろくて柔らかいとこ
ろなのでしょう。

 この角パンを家に持って帰ると、またお父さんに怒られます。で
も、貝の火は相変わらず美しく燃えています。

 その前には、ホモイの両親は前日にホモイを叱った原因である鈴
蘭の実を干しています。これは当然食用にするということなのでし
ょう。

 今度の角パンも、その日には叱りますが、その次の日にはみんな
で食べています。このあたり、ホモイの親の節操のなさが目につく
ところです。

 でも、最初は真剣に叱っているのですよね。ところがそれでも貝
の火が美しく燃えていたため、ホモイの行動が支持されていると受
け取ることができます。

 自分の価値感では、ホモイの行動は許せないと思っていても、よ
り高次の価値と考えられている貝の火が支持しているのなら、それ
を受け入れてしまったのだと考えることができます。

 ホモイの悪行→叱る→貝の火を見る→受け入れる

 という行動が繰り返されているわけです。貝の火自身が悪行を唆
しているということができます。

 これは恐らく、「試練」ということなのでしょう。ホモイ以前の
貝の火の持ち主も、わずかな例外を除いて、みんな短期間しか持て
なかったようです。貝の火はご褒美としてではなくて、試練として
与えられたのだと考えると、納得できるという気がします。



 こうしてウサギの子ホモイは、貝の火(貝オパール)の輝きを失わせたばかりでなく、自らも失明して貝の火も失ってしまうのです。
 

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