東京教組(東京都公立学校教職員組合)

教職員のセーフティーネット“東京教組”

再び、英語教育を問う

2014年01月24日 | インポート

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 昨日の漱石の引用は、江利川春雄さん(言語の認知科学)の論文に教えられたものだ。(英語教育、迫り来る破綻・ひつじ書房)
 この本は、英語教育の専門家4氏が英語教育政策の現状に危機感を抱き緊急出版したものだ。実に明快に、今の英語教育の課題と政府が強行しようとしている英語教育政策の危険性を指摘している。すべての教職員が英語教育に関わる事態も考えられる中、お薦めの冊子だ。
 なぜ、今、英語で暮らす日本なのか?江利川さんの論文「『大学入試にTOEFL等』という人災から子どもを守るために」から引用する。

1991年のソビエト崩壊による冷戦体制終焉とアメリカ主導のグローバリズム、それと同時期に進み始めた日本型工業化社会の瓦解によって、日本企業は大企業を中心に多国籍化を進め、いまでは企業活動を地球規模で展開する「超国家企業」へと変貌しつつあります。日本の製造業の海外現地生産比率は1986年の2.6%から2011年の18.4%へと急増しました。日本経団連や経済同友会に加入するような大企業では特にその傾向が著しく、御手洗冨士夫・経団連前会長の出身企業であるキヤノンでは52%、米倉弘昌・経団連現会長の出身企業である住友化学では40% にも達しています(朝日新聞2013年5月6日)oさらに、外国資本による持株比率の急増によって、経団連役員企業の多くがアメリカを中心とする超国家企業や投資家の強い影響下に置かれるようになりました。経団連の正副会長企業の株式に占める外資の割合は1980年には平均2.7%でしたが、2006年には30.7%へと急増しました。キヤノンの株式の51.1%は外国資本に握られました(2005年)。ソニーも50.3%が外資で、筆頭株主はアメリカの投資ファンドです。
 こうしたグローバル企業の内部では、英語が公用語ないし第二言語(ESL)と化しつつあるのです。ですから、日本がアメリカの51番目の州であるかのように、「英語が使えるグローバル人材」の育成に躍起になっているのは、こうした「お家の事情」があるからであって、決して日本の子どもたちの未来のためでも、日本の国益のためでもありません。こうしたグローバル企業で働く日本人はまだわずかであり、仕事で英語を必要とする人もせいぜい1割なのですから。
 超国家企業のグロ―バリストたちは、利益のためなら国民国家の象徴である常備軍や監獄までも民営化・市場化しますから、国民教育の市場化を求めないはずがありません。こうして、1980年半ばの臨教審以降、教育分野での規制緩和と競争原理の導入を進めていきました。彼らは、日本の学校教育のルールを尊重しよう、日本の若者を安定雇用しよう、企業内研修で一人前に育てよう、恩返しに日本国家に納税しよう、などとは考えません。内田樹氏が言うように、「彼らにとって国民国家は『食い尽くすまで』は使いでのある資源」なのです(朝日新聞5月8日「壊れゆく日本という国」)。
 とりわけ英語はグローバル企業の公用語であるため、グローバリストたちは英語運用力の向上について強い要求を課してきました。こうして、従来は企業内研修で行ってきた「英語が使える人材」の育成コストを削減し、公教育である学校教育に要求するようになったのです。ところが、学校は学習指導要領で規制され、英語が苦手な子も多数います。そのため、グロ―バリストたちは生徒全員の学びを平等に保障する国民教育の基本原理そのものが邪魔になり、競争と格差づけで一部の英語が使えるエリートを育成することに特化した政策を要求するようになりました。こうして、経団連は前述の「グローバル時代の人材育成について」(2000)を発表し、文科省がそれを「『英語が使える』日本人のための戦略構想」(2002)で具体化し、同「行動計画」(2003-07)で実行しました。

 TPP同様、多国籍(グローバル)企業は国民国家を超えて存在し始めていて、その要請が子どもたちまで及んでいるということに他ならないことが分かります。経過と状況は分かりました。では、子どもたち、教職員はどうなってしまうのでしょう。さらに引用します。

 無国籍化した超国家企業の経営者たちは、日本人従業員に対しても同胞として温情で接することはありません。利益さえもたらしてくれるならば従業員の国籍は関係ないのです。ですから、社内では英語を公用語にし、母語を捨てさせます。TOEFLのような苛烈な試験を課して競争に勝てた者だけを採用し、あとは使い捨ての非正規労働者でよいと考えるのです。雇うのは、英語ができて辞令一本で海外勤務もいとわない「グローバル人材」というエリートだけ。たとえブラック企業と言われようが、賃金は押し下げ、サービス残業はやらせ放題、辞めれば外国から安くてよく働く労働力を補充します。ユニクロのファーストリテイリングでは、2010年に入社した新卒社員の実に53%が3年以内に辞めています。その穴を埋めるために雇った2012年度の新卒採用者は8割弱が外国籍です。楽天も、採用したエンジニアの7割近くが外国籍です。
 国民国家の破壊は、おいしいビジネスです。ユニクロのファーストリテイリングを経営する柳井正会長兼社長の個人資産は約8,800億円で、日本トップの富豪となりました(2012年)。「大学入試にTOEFL」を主導した楽天の三木谷浩史社長兼会長も、約5,200億円と桁外れの個人資産です。
 こうしたクローバリストの数はどくわずかですが、彼らは政治献金、メディアコントロール、宣伝によって巨大な影響力を行使します。「このままではグローノリレ競争に勝てない」と連呼することで日本全体の危機であるかのように演出し、規制緩和と優遇策を要求します。ちょうどアベノミクスで潤うのがごく一部の富裕層であるのに、なんだか日本経済全体が活性化しているかのように錯覚させられ、気がつけば庶民には増税と貧困、という構図と同じです。
 こうして、「グローバル化には使える英語、ならば入試にTOEFLもアリか」という気持ちを抱く国民感情が形成され、政治家はそこにつけ込みます。しかし、そんな思い込みのない多くの子どもたちは、世界第9位の使用人口をもつ日本語の大海の中で、「英語なんかいらない!」「なんで英語なんかやるの?」と冷めた目をしています。この子たちを相手に、少しでもやる気が出るよう、わかるよう、力がつくよう、英語教師たちは過労死線上の労働環境の中で必死の努力をしています。

では、外国語教育政策をどうすべきか、江利川さんは
①「大学入試にTOEFL等」などという危険な方針を実施させないことです。
②会話で大切なことは語るべき内容の充実度にある。それは良質の英文を読んだり、考えを英語で書くことによって養うことができますから、その訓練と教材内容の充実が必要です。大学で求められる知的な会話力は、入試に会話を課せば向上するというほど単純ではない。
③1990年代以降の会話重視の教育課程を検証し、英文法の明示的な指導、日英比較、英文解釈などを含む、日本人の学習環境にふさわしいEFL(English as a Foreign Language)型の学習法に添った教育課程を再確立する。
④少人数による人間関係力を高める「協同学習」を取り入れた授業改革。
⑤複言語、複文化主義の外国語政策
⑥「教師のゆとり」の保障
⑦英語教育学の専門家集団による教育政策の立案・実行機関を作るべき。
と提案している。
カンザクラ