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蕃神義雄 部族民通信

レヴィストロース著作悲しき熱帯、神話学4部作を紹介している。

レヴィストロース「食事作法の起源」を読む(続き) 12

2019年02月08日 | 小説
(2019年2月8日)
文化創造に参画するためには、女性は周期性を具有せねばならない。
周期性とは服飾品や什器の作成とその使用で、家事全般である。それらにまして、自身の身体特性を周期化する要がある。月経の獲得にあわせ懐妊能は必須で、月が満ち十月十日の出産につながる。Arapaho族の娘が月に誘われ、天上の「文化家庭」に嫁として滞留したのは、周期性を基盤とする「文化生活」を修得して下界に普及させるためであった。脱出行での墜落死、己身の犠牲を払ってまでも周期律の文化委譲の偉業が達成された。
雌カエルが天上嫁の選から外れた。これはArapaho族のみならず全人類にとり、歴史上、最大の僥倖であった。さもなくば、パリのビストロで今時食われているのはヒトの脚で、食っているのがカエルとなっていた筈だ(前回に続いてのつまらぬ述懐の繰り返しをすまぬ。それだけ、神話を読む小筆の憂いは辛かったのだ。まだ食われていない脚をさすりつつ投稿子は今、安堵しているぞ)

先住民の思考が身体周期性に重きを寄せる仕組みについてレヴィストロースは、西洋社会の世界観l’enfer c’est les autres (地獄とは他者だ、悪は外に存在するとの意味)を取り上げ、その反対概念として位置づける。なおles autresの言い回しはサルトル=哲学論争の対敵者=劇作品での台詞である。さりげなく引用している。対する先住民はl’enfer c’est nous-meme(地獄は私たち自身が抱える、レヴィストロースの造語)の思考法であると対比させたうえで、周期律文化論を発展させている。

本書L’origine des manière de table食事作法の起源の最終章は「La morale des mythes神話の教え」その414 頁。
ワイン摂取の害はどこからか、論を始める。
子のワイン摂取をなぜ制限するかの問いに<<le vin est une boisson trop forte ; on ne peut l’administrer sans risque a des organismes fragiles>(415頁) ワインは強い飲み物で、まだ身体器官が弱いものには体の毒。
今の親はかく答える。しかし古代からルネッサンスまでは真逆の思考であった。
<<non pas la vulnerabilite d’un jeune organisme a une agression externe, mais la virulence avec laquelle les phenomenes vitaux s’y manifestent : =中略= Au lieu donc de juger le vin trop fort pour l’enfant, on jugeait l’enfant trop fort pour le vin>
訳;外界からの攻撃による(子供の)損傷ではない。それは(内包する)有毒物で、摂取に伴って様々な症状が表出するのだ。ワインは子供に強すぎるのではなく、子供の(潜在悪)がワインよりも強いのだ。

ワインは体に毒とする考え(l’enfer c’est les autres)は近世に生まれた。過去は身体がワインに対して強すぎると思考していた(l’enfer c’est nous-meme)。成人ともなれば身体悪を制御できるから、ワインに強すぎる事態を回避できる。ルネッサンス以前は先住民の思考、作法と同期していた。尊師レヴィストロースの指摘である。

写真:サルトルの戯曲のポスター、この語は当時(1950年代)流行ったらしい、歌評論などにカバーが出ている(らしい)

被服、什器などへの機能も異なる。手袋、外套、ストローを挙げて;
<<Au lieu, comme nous pensons, de proteger la purete interne du sujet conntre l’impurete externe des etres et des choses, les bonnes maniere servesnt, chez les sauvages, a proteger la purete des etres et des choses contre l’impurete du sujet>(419頁)
訳;(手袋、外套などの効用は)我々西洋人は内なる無垢を外部の人、物から防御するため
と考えるが、未開民においては、内なる不純を外の人、物の無垢への影響から守るためにそれらを用いる。こうした規範の根拠はl’enfer c’est nous-memeを外部へ吐露しないためである。

さらに;
櫛、頭掻き、ミトン、フォークなど什器を持たずに(作法に反した手順で)髪の手入れ、外出、食事などを実行するとは周期性を無視する所行でしかなく、結果(老化の速まりで)白髪、顔の皺など不具合が発生するとの言い伝え(新大陸広く)を挙げている(421頁)。

ここで女の周期性に戻ろう;
おおよそ新大陸のすべて部族で、月経にまつわる禁忌を挙げている。妻、娘が月の障りを迎えてギアナ先住民の夫は彼女らに食事制限を強いる。
<<Pour que leur corps elimine le poison qui, sens cela, fletrieait la vegetation et frait enfler les jammbes des hommes partout ou elles ont marche>(418頁)
訳;身体が(内なる)毒を滅消させるためで、その過程なしでは(女が)歩いた至る所で作物が枯れ、男の脚が膨れてしまう。空腹にして毒を消すのみならず、毒を消しおざなりにしてうろつくのは、まき散らしでしかないから禁じられる。特に裸足歩きは、極端に制限される。

女どもが月の禁忌をすっかり守らなくなったら、周期性が崩れる、
<<elles se trouvent constamment menacees—et l’univers entier avec elle , de leur fait—par les deux eventualites que nous venons d’evoquer : soit que leur rytsme periodique se relentisse et immobilise le cours des choses ;soit qu’il accelere et precipite le monde dans le chaos.>
訳;彼女らは間断なく脅かされるであろう、さらに宇宙全体までが危機に陥る。(月経の周期性欠如によって)宇宙のリズムが狂い、日と夜の交代が遅くなり物の動きが緩慢になるか、速くなってこの世が混乱するかの危機を迎えることになる。

月が人の嫁をとって身を固め、日夜の交代リズムが担保された。同時に女に月経が発生した。月と女の密約でこの世が平安に保たれている。しかし、時として女は約束を守らず奔放に生きるとする(蜜から灰へ、蜜狂いの娘、裸の人=神話学第4刊の「アビ、鳥plongeon」娘)などが例である。

レヴィストロース「食事作法の起源」を読む(続き) 12の了
(次回2月12日を予定)


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