蕃神義雄 部族民通信

レヴィストロース著作悲しき熱帯、神話学4部作を紹介している。

私の古い街(詩)

2012年01月09日 | 小説
古い街

幾十年も前にお前を去った

別れてもなお、お前は夢に出てきた

小さな道、道角のベンチ、公園と教会、

プラタナスの下、緑の木陰。行き交う人々、飛び立つ鳩の群、

夢のなかでお前を歩く、走る、息をため空を見上げる

お前に生きていた。しかしお前は欺いた

あの女を隠し続けていた

亜麻色の長い髪、しなやかな腕とふくよかな胸

その姿態を私から隠していた。

女がどこに住むかは覚えている

レンヌ通り108ビス、アパート、暗い通路、狭い階段。

真鍮が鈍く光る戸を軽く叩く。

あの時彼女が現れ、私達は愛し合った。

夢でもいい、あの姿を見たいと焦がれるのに

もう一度あの喜びを確かめたいと望むのに

お前は女を隠し、愛は再来しなかった

私の街、古い街パリ

毎夜褥をともにしたけれど裏切り続けたお前

夢に悲しむ夫を嫉妬するのだ。

あの広場、公園、あの通りに戻っても愛など再来しない

夢にも生きられない夫はもう戻らない
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