蕃神義雄 部族民通信

レヴィストロース著作悲しき熱帯、神話学4部作を紹介している。

アジア部族民 氷の接吻(夜の散歩道)下

2011年07月23日 | 小説
(夜の散歩道上 7月15日の続き)

「オウッ」とコタロウの肯定する声がサキの耳元で小さく響いた。このタイミングで何を肯定したのか理解できなかったが、それはこれまでの固い発声ではなかった、静かな呟き、あるいは熱の籠もる誘い声とも聞こえる。

「これほど強く引き寄せてオウッだって。コタロウは私に関心を持っているんじゃないかな。女としての私サキに」
しかし疑いをすぐに打ち消した。
「まさかそんなことが起こるはずが無いわ。さっきお巡りさんにオウッとグワッを逆に通訳したから、その効果が残ってしまい、オウッグワッの意味合が逆転しているのよ。だってこいつは愛など知らないでくの坊じゃないか。コタロウが女を好きになる、愛するなんて出来ない。
私とは違う」

道行きの二人、確かめながら足先を揃えて歩む夜の道。左手には公園の森、新月闇夜の深い夜、今は木々すら寝静まる。
サキは無言にまま歩みを進めた。高い塀が続く。そして右手には小さな谷を形成する小川、夜の静けさにせせらぎ音すら聞こえてこない。モノレール駅まではゆっくりと、止まるごとく歩いたところで誰が気にするものか。2人を気にする誰かさんなんていやしない。人っこ一人が通りかからないのだ。
この夜道は二人だけのの道なのだ。追っかけフクロウ今度は「ホロホウ」と寂しく啼いた。
谷あいから夜霧がひたと寄せてきた。川の蒸気は白く暖かく、水銀灯を囲み包んで、その白い光芒は散歩道の黒い木立にぽっかりと浮き出た。歩道までうっすら白く霞みはじめた。
2人は手を組み指をからめて握りあった。
コタロウの掌の冷たさにサキは驚いた。温もりが全くないのだ。手を組み恋人同士を演出している敵方(あいかた)は冷血でくの坊なのだと知った。そして敵方を心配するのか、優しい声をかけた
「キミ寒くないの」
 冷血人間に「寒くないか」は無意味な質問だ。彼らは寒くないのだ。コタロウは「グワッ」と返した。その意味はノー私は寒くない、あるいはイェス私は寒い、どちらかだ。
「追っかけホウホウのフクロウは寒くないかな」
「…」
「フクロウにも冷血種はあるの」
「…」
「君、冷血タヌキを友達に持っていない」
「…」
「じゃあ冷血のモグラっている」

 コタロウは返事を探れない。
なぜサキはこのように意味のない会話を交換し始めているのか。
無意味な質問のとは、その繰り返しとは始まりなのだ。何かが始まると感じているから、サキは無意味質問を繰り返しているのだ。
モノレール駅に近づいた。

駅広場、そこには街路灯の光さえ消え入る広い闇がある。闇空間のうつろな陰に銀色の目玉を向けたコタロウ、冷たい眼光が闇奥に蠢く怪しい物体を認めた。
広場に漂う何モノかが、コタロウの銀色照射を受けて闇から浮き出た。最もそれを視認できたのはコタロウだけ、微細眼振のない冷血の目が気付くのだ。

コタロウは両の腕をサキの腰にまわし女の身を己の胸に引き寄せた。抱きしめられ中空に浮かんだサキは、突然の口づけでコタロウに責められた。
サキの唇を求め己のそれに強く重ねる。赤い唇は青い冷たい唇に苛まれた。熱い赤いあえぎが冷たい青に盗まれた。しばらく接吻が続く。
中空に持ち上げられたサキ。一瞬はもがき、乱暴な愛への抵抗を見せたがすぐに止まった。抵抗はそのフリだけだった。なぜって有無を言わさない抱きしめに、サキは抵抗など出来やしない。
手足も腰も力が抜けた。宙ぶらりんのサキは腕を落としだらりと脚をのばした。
「こんな乱暴な告白なんて、女の心を少しも分かっていない。コタロウ、やはり心は子供ね。
でもなんて冷たい抱擁なの、そして冷たい接吻」
初めての接吻を興奮しサキは冷たさに酔った。

黒い影が風の吹くように広場の闇から抜け、抱擁する二人に近づいた。
その影は密着した立ち止まり、二人の間隔を見極め、さらにじっくり見つめ見下ろしていた。接吻の様をじっと身じろぎもせず暗闇から凝視していた。
闇に向かい一声、「畜生」
悔し言葉を投げた。男の正体はイクオである。

(氷の接吻は最終稿に向け加筆中です。部族民通信(HP)に9月以降に掲載する予定です)
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千代子稗搗節、鈴は鳴らなかった

2011年07月20日 | 小説
島倉千代子の稗搗節を聞きながら歌詞の解釈、2回に分けてブログ(6月28日駒ひき考、7月7日叙事詩)したが、書き漏れた1点が残った。小分けで幾度も繰り返すのは性に合わないのでこれを書くのに途惑っていた。考えればその点は歌詞解釈で最重要な寓意であり、考えるほど隠されたその暗喩を解かねばいけないと思った。
それでこの号を千代子稗搗節の完了版としてブログする。

気に掛かっていたのは♪鳴る鈴かけてよ~♪の「鳴る」です。鈴が鳴るのは当たり前だから「鳴る」は要らない。これは「書く鉛筆」とか「回るモーター」と同様で必ずある属性を繰り返しているだけ、不要な形容詞です。
「小言多い親父」は昔からだが、最近は「文句たれる女房」も必須属性の繰り返しなので「文句たれる」は不要である。
この言い回しを稚拙と感じていた。内心で「これは民謡なので歌詞も俗曲レベル」などと不遜に解釈していた。これが間違い、前のブログで1番と2番を「代掻き馬」をつれて「タノモー」と御殿にやって来る田舎の「のんびり小父さん」光景だと誤解していたと同じレベルの幼稚解釈であった。
この誤りに気付いたのはやはり千代子の絶唱をYuouTubeで聞いたからです。

鈴を鳴ると形容したのはこの鈴は「鳴らない」からです。
鳴るはずの鈴、鳴らさなくてはいけない鈴、必ず鳴らすから待っていてくれ。だから「鳴る鈴」をサンシュの木にかけた。そして鈴が鳴るのを(鶴富が)待っていたにもかかわらず、鈴は鳴らない。いつまで経ってもとうとう鳴らなかった。
「鳴る=帰る」の意味で、帰らなかった大八は鈴を鳴らせなかった。

大八が「鳴る鈴」をかけたのは「鳴らしてみせる=帰ってくるよ」の意味かけでした。しかし大八は「椎葉立つときは目に涙」だった。鳴る鈴をかけても、その鈴を鳴らせない自身を知っていたからです。鈴を自己のアルターエゴ、分身として椎葉に置いた、それが愛した鶴富への精一杯の感謝だった。
2度とは会えないと知っての別れ、悲しさに綻ぶ心の慰めが鈴、それも「鳴る」はずの鈴でした。
彼は鶴富に「きっと帰るから」とも「帰るのは無理だ」とも告げなかった。鳴る鈴をかけただけだ。それが「鳴らない」絡繰りを知っているので目に涙したのだ。大八はやはり部族民だったのだ。

この際なのでYuouTubeを渉猟したらはん子(神楽坂)、太郎(東海林)とひばりの稗搗節を楽しむことが出来た。皆当代の名手としてならした方々なので堪能しました。
そして婉曲な言い回し、比喩暗喩の重なり、成就されない願望を分身に托すなどの部族民的解釈に合致しているのが島倉千代子でした。

彼女は偉大な部族民なのだ。
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アジア部族民 氷の接吻(夜の散歩道) 1

2011年07月15日 | 小説
(ナナオのコタロウから続く)
>コタロウは公園脇のバッティングセンターでイチロー並みのスラッガーぶりを見せたが、その場に長居はできない。彼は警官から追われているのだ。サキ(=コタロウの恋人)の案内でモノレール駅に向かう。公園から駅は散歩道が続いている、夜には人の通りもまれとなる<

=氷の接吻からの抜粋=

街路樹の繁みの重なりの下には、街路灯の明かり届かぬ暗がりが広がる。サキとコタロウは、灯の温もりを避けながら、繁みの下、枝葉の脇を縫うように歩いた。
足を進めるその先に夜の暗さが広がる。
足先を確かめ一歩ごと歩みを踏みしめ、寄り添い歩く二人の姿は、漏れる明かりに浮き出ては闇に消え入る。
サキの目に歩道は、ぼうと灰色に霞む川に見えた。この川を訪ね進めば、きっとどこかに行き着く。行き着くその場所は、
「私の部屋ではない、もっと遠いどこか。滅多なことでは辿れない遠い国、そこにまで辿れるのよ」と心に思った。
その歩道が街灯の狭間の闇に吸い込まれ、その黒さの中に消えていく。二人も溶け込むように闇に吸い込まれていった。迷い込んだ闇の空間が、黒い透明な結晶として固まった。
二人は夜の暗さの結晶体に迷い込んだのだ。であれば行き着く果ては結晶の中、小宇宙。そのとある場所になる。
「きっと千年王国の聖都よ」サキは断定した。フクロウが二人の上を舞い、ホロホロと啼いた。

恋人ならば肩を寄せ合う、サキがコタロウに寄せる肩はなんの兆しなのか。コタロウの腕を取り、自身の腕の左と右と二重に絡ませたサキ。身体を寄せて肩を重ねて、二人連れ立ち夜の結晶体を、明かりを忌み、暗がりに遊びさ迷う。

サキがコタロウに伝える。
「暗い夜道はとはね、特別な道なのだよ。そこは男同士で歩かない。まして女同士でも歩くものか。歩くのは必ず女と男、そして男と女。
その組み合わせでしか暗い夜道を歩かないのさ。
夜道を歩くのは身体を寄せ合うのが流儀なのさ。こうやってね」サキはより密着を試みた。コタロウは避けはせず、しかし応えもしない。
「男なんだからしっかりと私の肩を引き寄せるんだよ」
命じられるまま、コタロウは彼女の肩に腕を回し軽くサキの身体を寄せた。その軽さがサキには不満だった。
「ぎこちないなぁ、
 私たちは女と男、身体を寄せて夜道を歩く。街灯を嫌うし、暗い木枝の陰りを許す。だから時間の欺きを嫌い、短すぎる道程を避ける。
ゆっくりと一歩に一歩を重ねて、左足が進めば右が残る。右が歩めば左がとまる。そんな風に時間を惜しみ、距離を慈しみながら歩くのさ。
その二人姿を誰かが見ているとする。私たちがどんな男女に見えるか。
コタロウ、キミって分かるかい」
「グワッ」
「お前はやはり冷血人間、分からなくても許してあげる。でもキミくらいの年齢になれば、フツーはピーンとくるよ。その姿は恋人。夜の暗い道を静かに歩く男女とは、恋人同士なのさ」
「グワッ」
「お前の返事が読めなくなった。女と男、恋人の関係を理解していないのか、理解するけれど私と恋人はご免被る。
それでグワッとしたのかい。どっちだね」
コタロウの返事はない、問いが二重になると答えられないのだ。
サキは気にせず続ける。
「今はこんな風に歩くのが一番安全なのだ。あの先の曲がり角でパトカーが止まっているかも知れない。暗い車内でお巡りが私たちを見張っているかも知れない。
その時、私たち二人がよそよそしく、離れて歩いていてごらん。すると彼らは「この二人はいちゃついていない、夜道を歩く資格が無いどころか、怪しい関係だな」と疑う。
「キミタチ、いちゃついてないね。おかしいぞ」なんてちょっかい声をかけてくるよ。そのまま再尋問になるかも知れない。コタロウの眉がわずかに動いた。

「夜道、暗い道を二人で歩くのは、ベタつきイチャつきの恋人の組み合わせがまともで、離れてよそよそしく、テンコテンコとうろつくのは怪しい関係になる。泥棒や空き巣の仲間内ではイチャついたりしない。彼等は真面目だからね。
分かったかい、サキ様の深慮とエンボウが。だったらもっとしっかり肩を抱きなさい」
「オウッ」
 コタロウには先ほどの警察官からの尋問は堪えきれなかった。サキが口を挟まなかったら不審者として拘置されたかも知れない。すると冷血人間がばれるかも知れない。なんとしてもこの身体の秘密は隠さなければならない。
再尋問を防ぐ手段が肩の寄せ合い、そうと知ってさらにサキの肩を強く引き寄せた。その勢いにサキは驚いた。
 「オウーット、キミ腕の力強いね。そんなに強く肩を抱かれたら、フツーの女ならその気になってしまう。私は大丈夫だけど。
寄り添うというのはあくまで演技、警官騙しの仮姿なのだからね。そんなに強くはまで必要ないって、アレー」
指南役が指南効果の効き過ぎで悲鳴をあげてしまった。引きつけられるままに息まで詰まった。コタロウとのもたれ合いをしかしサキは拒まない。
公園の木立からホウホウとフクロウの啼き声が聞こえた。先ほどからのフクロウが追いかけているのであろう。
(夜の散歩道2に続く、近日掲載)
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ナナオのコタロウ 4=了

2011年07月08日 | 小説
(ナナオのコタロウ3からの続き)

野球など知らないサキにはただ聞くだけ。全てが右から左に抜けていくだけだが、店主が力説したい点とは、
「直球は進化したダルで、手元でブンとむくれる百七十キロ、スライダはマツザカの放物軌道をまねたので、ぐぐんと首元から足先に斜め落とし。そして決め手のフォークはあのスギシタだ。大魔神よりもすごかったぞ、まさに殺人フォーク。殺バッター、殺人スラッガーが時間を超えての入り混じり、時には外しのボールまでも入れるからつられるなよ。
当店の自慢シーケンス、チューオーの連中がカスリもできずションベン垂れて逃げていった」
近くに大学の運動部があるらしい。ひととおり能書きを垂れてマシンにスイッチを入れた。ダルの直球が投げられた。
 間近で見るサキにはとてつもない速さだ。マシンがその腕を振り下げ球がヒューンとうなりマットがズボリと揺れた。これにはコタロウも胸元をかすめる球を見送るだけだった。
二球目は、マシンから投げ出された球が2シームでひねくられた己の身の上を怒り、ワオーの罵り声をあげて胸元から膝にギイイと曲がり落ちた。コタロウは三球目のフォークボールも見送った。
「これには手が出なかっただろう。イチローだって簡単には…」
自慢げな店主の声が止まった。声が続かなかった。

四球目、それは店主の説明では見立てでは「超ダルの百七十キロ」だった。球速もすごかったがコタロウの振り回しはそれに輪を掛けた。バットは確かに回ったのだが、その棒体が空を切る音が全く聞こえない。高速回転する扇風機は羽を回すとうるさい。ジェットエンジンのタービンブレードだってビリリと羽音をばらまく。
ブレード以上の回転速度でアルミの重いバットをブン回したのだが、風切り音が一切聞こえない。バットがとても素早く空を切るので回転周辺が真空となってしまう。だからブンの音が出ない。

音だけではない、目にも見えないのだ。
コタロウが腕を振るのは見えた。しかしバットの回転する残り影はサキには見えなかった。店主にだって見えていない。高速すぎてバットが回転中に消えるのだ。
球が胸元にくるまでコタロウは振りださないし、身も動かさない。球が肩をこえて胸を抉るその時に、コタロウがバットをまさに軽く小さくフンと、しかし目にも残らない回転速度で回した。
振り終わった時には球がネットの最上部にはじき返された。
 
なぜコタロウが170キロの高速球をいとも簡単にはじき返せるのか。そんなの当たり前だ、彼は体温も脈拍もゼロ、呼吸も瞬きもしない冷血人間である。微細眼震など一切ないからだ。
ご近所で餌取りの超絶ジャンプを見せていた犬のチャビ助など、足元にも寄せ付けない動体視力の持ち主なのだ。

(以上はトライブスマンの最新作氷の接吻からの抜粋です。近々の題名の由来となったコタロウ・サキの氷の接吻の場を掲載します)

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千代子稗搗節は叙事詩である

2011年07月07日 | 小説
6月28日のブログで「島倉千代子駒ひき考」を投稿しました。その続編です。
(28日にはどうしても開けなかったSP版の千代子稗搗節(お休みの前の1曲)が本日
=7月7日=には開けました。早速聞き直し彼女の美声を堪能しました。皆様も
youtubeでブラウザして下さい)

聞き直して解釈がかわりました。
1番2番の相聞唄は大八と鶴富の「最後の別れ」を歌ったものではないかと。

平家追討で大八は山深い椎葉で鶴富と会うのだが、2年の長き彼女との愛で過ごす。
頼朝の直々の命で板東への帰還となった。その別れの情景を歌ったのがこの
歌詞ではないかと。

別れの日、
御殿で旅行きの安全を祈願する出立の儀が催された。無事終わり烏帽子甲冑に太刀さげ
姿の大八がいざ出でんの時。鶴富は裏庭から駒をひき、手綱を大八に渡す。

その時大八が「♪庭のさんしゅの木…」と鶴富に歌いかける。その真の意味は直訳は「…鈴ならす、出てきてね…」だが、ここには部族民思考的暗喩が含まれている。鈴とは大八なのだ。
歌詞の意訳は「遠く板東は那須が原に帰る、鈴をかける。この鈴は鳴る、きっとここに戻り、鈴を鳴らすぞ」なります。
鶴富返して「♪鈴を鳴らすはあなただけよ、あなたが帰ってきたら駒に水やると(言い訳して)私飛び出るわ…」
その解釈で3番の「目に涙」とのつながりがよりわかりやすくなります。彼は「私は鈴を鳴らせない」と知った上での鈴かけだから泣いているのです。那須と椎葉、1500キロはあります。生きて別れが死にの別れとなる決別に恋人を置いての直命帰還。まさに涙の別れです。

鎌倉初期は部族民思考が風靡していたので、感情を直接訴えるのではなく、唄にのせて語りかけるー彼は
「お前が好きだよ、きっと帰る待っていて」などの直接話法はせずに、鈴をサンシュの木にかけた。鶴富だって「あなた、きっと帰ってきてね」とは言わない。だから「帰ってきたら駒に水あげるからね」と返した。「駒に水」は前述で言い訳、跳びだして抱きつきたいのです。そして部族民は人前で抱きつきしないので、見つめ合うだけかも知れないが。
大八がかけた鈴はまさに彼自身の分身であり、鈴と駒は部族民どもが信じているもう一人の個人「アルターエゴ」と解釈できる。

この民謡は800年前のある事件「板東若武者が九州(当時は筑紫)在郷の奴卑と恋愛した」を歌った叙事詩であったと気づいたのです。鶴富を在郷武士の姫とする解釈が多い。地元での説明も姫であろう。投稿子はあえて奴卑とした。手綱引くのも駒に水やりに立つのも奴卑の仕事であるし、若武者と奴卑の愛、一大事件であるから民謡にも残ったのだ。

蛇足:やっぱり鶴富はお千代さんですね。控えめ、でもふっくらで大柄。大八は誰だろう、貴一、ヨン様?誰でもいいや。トライブスマンでないのははっきりなんだから。

蛇足(12年7月18日に追):関東の男と筑紫(九州)の女性は相性がよい。荒くれ関東夷はしとやか筑紫女子に惹かれるのだろうと考えます。
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ナナオのコタロウ 3

2011年07月03日 | 小説
(これまでのあらすじ)
土砂崩れから救出されたコタロウはシリツ病院の集中治療室に押し籠められた。彼には2の秘密があった。1は冷血人間、すなわち体温血圧心拍がゼロである。これはベテラン付添婦のトメ女には見破られていたが、彼女も知らない本当の秘密は 
2夜な夜な治療室を抜け出て街に出るである。バッティングセンターに向かいタマ打ちで一時を過ごす。今夜も白パジャマのまま治療室から姿を消した。
日野市の獣医佐々木先生の仮説では「体熱、心拍、呼吸をゼロにすれば微細眼震がなくなる。動体視力が超絶するチョーイチローになる」
冷血で微細眼震のないのコタロウがナナオバッティングセンターで披露した技術とは。以下は最新作「氷の接吻」からの抜粋です

目を周囲に回し耳を四方に傾けた。バッティングセンターから小気味よいコーンカーンの音が響きだした。誰かがボールをとばす気持ちよい音だ。サキ(=コタロウの恋人)は表にまわり、センターを覗き込んだ。なんとコタロウがバットを振り回しているのだった。サキは慌てて飛び込んだ。

ボールをバットの芯に当てなければあの快音は聞けない。それも連続して聞こえている。ピッチングマシンがボールを投げるたびに真芯にボールを捕らえ、小気味よくかっ飛ばすコタロウがそこにいたのだ。
プロ選手級の腕前の打撃である。
「こんな所にいつの間に入り込んでしまって。コタロウ、君は野球を知ってるの」
サキの声は大あわてで叱責に近かった。もちろんコタロウは返事もせずにボールを打ちこんでいる。店長が二人の間に割り込んだ。
「お嬢さんの知り合いなのかね。びっくりしてるんだ、すごい寝間着姿の高校生だって」
「彼はデートの相手なのよ。外で待ち合わせるはずがここに先に入っていた。すっかり心配していたのよ」
「心配することなんかない。この子は一人で裏から入ってきて、床に転がっていたバットをとりあげてぶんぶん回していた。
でやるかいって尋ねたのよ。体育会系の「オウッ」みたいな声あげたけど、「やるよ」って意味だろうから、打席にたたせてマシンのスタート押したら、のっけからびょんびょん当ててる。
それもマ芯にだよ。ボールの芯をバットの芯に正面から当てる。これがマ芯と言うことなんだが、そればっかり」
「そんなことどうでも良いの」と店主の驚きなど打ち切って、サキは苛つきあきれはて、コタロウにとうとう怒鳴ってしまった。
「デートはここじゃないのよ、外に出るのよ」
バッティングセンターで打撃練習する時間なんてはコタロウにはけっして無いのだ。この今の時間にも追っ手が迫る、外には警官が見張っているではないか。
「チョット待ってくれ、あの子にしばらく居てもらうのだから」

店主は投手側に走ってマシンをいじくりだした。球のシーケンスを変えているのだ。その調整に時間がかかっているあいだ、サキは「今がチャンス」とコタロウに緑のゴアヤッケを被せた。これで目立つ白パジャマが隠せた。そのうちに店長が戻ってきた。
「今度はちょいと高級アマ選手向け。いくらなんでも高校生にはこれは無理だ」と自慢げな顔つきでその「無理」なる理由を説明しはじめた。(ナナオのコタロウ4に続く)
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ナナオのコタロウ 2

2011年07月01日 | 小説
(ナナオのコタロウ1から続く)

ナナオのコタロウは土砂崩れに巻き込まれ建設現場の土管に埋もれてしまった。発見され、シリツ病院アイシーユー(集中治療ユニット)におしこめられた。同病院で付添婦として患者さんを見ているトメ女は筆者(トライブスマン)にかく語った。
「あの子(コタロウ)はアイシーユーにスタスタ歩いて入ったのよ、そんな患者はじめて。すぐにベッドに寝かされてゾンデ(生体信号の検査具)を身体のあちこち貼られた。
心拍、血圧、体温など生きるに必要な信号が全てゼロ。
数字が正しいのなら冷血人間なのよ。婦長さんは機械の調子が悪いといいながら、ゾンデをすべて剥ぎ取ったんです。しかし私はあの子を見ていたから知っているのだけれど、機械は正しかった。彼の手を触って驚いたけど、冷たい、体温はゼロ。そして心拍も脈拍もない」
続く発言はそれ以上に驚くべき秘密だった。
「呼吸しない目は瞬きしない」
それはまさに死人ではないか。
無酸素状態で地中に12時間閉じこめられたとはいえ、この状態は過酷すぎる。それでもコタロウは歩き、ベッドに寝てはいるが目を開けて上を向け、何やらをみている。外見を見るだけであれば、彼は生きている。しかし生体信号は死を示している。コタロウは生きる死人なのか。

トライブスマンは、トメ女の知らないコタロウの秘密を嗅ぎつけていたのだ。その秘密行動をして「ナナオのコタロウ」の伝説を創った。

シリツ病院の夜更けは早い。8時の消灯となった。
コタロウは目玉をグルリと回して、病室の周囲、廊下の行き交い密かにを伺った。人の声は聞こえないし足音も途絶えた。
看護師付添婦などが消えたののだ。立ち上がってアイシーユーからふらり抜け出す。服装は重篤患者の白衣パジャマそのもので、この服装は病院では一向に目立たない。抜け出すに好都合だ。
裏口からシリツ病院を抜け、バイパスを渡りJRトヨタ駅にひた走る。ひた走っても息は乱れず汗など出ない。白衣パジャマが一人歩きすればおかしいので、行き交う歩行者に止められないかとの質問は無用だ。夜8時であればいまだ人通りは残る。ちらほら行き交う帰宅者はひた走る白衣を見ていぶかしがるが声を掛けない。
無言のままコタロウはトヨタ駅連絡橋を抜け、南口をひたひた走った。都立ナナオ公園入り口のバッティングセンターを目指していたのだ。
(ナナオのコタロウ3に続く)

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