(10月30日)
レヴィストロース神話学の代表著作Le cru et le cuit(生と調理)を素人なりの理解で解説しています。素人とは哲学、文化人類学、言語学、フランス語において理解の浅さを自認しているに尽きます。さて、
第一楽章「テーマと変奏」に続いて第二楽章は表題「良き作法のソナタ」の通りです。
さっそく「悪しき作法」例が述べられます。基準神話M1において、ヒーローが母親を姦した。父から母を奪い取る行為で「悪い」作法。しかし父親にして妻に無関心(indifference)であって、これこそが「悪しき」作法で、結果、妻をして息子をそそのかし、その行動に追い立てたと、神話は仄めかしています。同様に、ジャガーの人間妻への無関心(=妻を殺すために弓矢を養子に与えるsequenceシーン。ジェ語族Kayopa族、M7,8の神話)。「ジェ語族の変奏曲」に述べられている。
「作法のソナタ」では侮蔑、拒否の行動を顕著に見せる神話を取り上げています。
神話16 Mundurucu族:origine des cochons sauvages(野生豚の起源)
(Mundurucu族はTupi語族に属すが居住地はジェ語族のKayopoに近接している)
挿画の解説:野生豚ペカリ。群れで行動し荒々しい気性から狩りは集団で。一人住まいの俗神がなぜペカリを手に出来るのか、この疑いから豚閉じこめの秘密がばれた。(本書の挿絵からコピー)
M18はKayapo族(ジェ語族の有力部族):野生豚の起源
=M16と同様のarmature骨格を持つ。ヒーローオインベは子を侮蔑した人々を豚に変えて閉じこめた。この過程はM16同様に進む。ある一人(妻の兄弟)が秘密を探り当て、毎晩、一頭ずつ盗んだ。ヒーローは怒って全頭を放った。
さて、M18でヒーロー(オインベ)は妻の出身部族、姻族に、子にとって母系に、その子をとおして食を無心した。一方、先に引用したM16ではヒーロー(カルサカイベ)は血族である己の姉妹、その子には叔母と連れ合い、子には夫系の集団に食物交換を乞うた。
不当価の交換(小鳥対豚一匹M16)、あるいは無心(M18)は非礼か?一方、姉妹は「夫が」狩った豚を小鳥と交換するを拒み、甥を侮蔑した。M18では妻の係累は無心を拒否した。非礼は無心か拒否か、どちらにあるのか。
レヴィストロースはさらに神話を引用する。
M20 ボロロ族:origine des biens culturels装身具の起源
<jadis les hommes du clan bokodori (moitie Cera) etaient des esprits surnaturels qui vivaient joyeusement dans de huttes, appelees<nid d’aras>. Quand ils desiraient quelque chose, ils envoyaient un des jeunes frères aupres de leur soers, pour qu’elle l’obtienne de son mari>(100頁)
拙訳:かつてcera部のbokodori支族の男達は超自然の精霊だった。金剛インコの巣と呼ばれた小屋に住み、毎日を楽しく過ごしていた。必要な物が出る度に、幼い兄弟を村に送り、妹(姉)に「夫が収穫したものから出してくれ」と無心していた。ここまでが引用分です。
続きは<(食客兄弟の)妹が渡した蜂蜜は泡がたち酸っぱかった。なぜなら採集の前に夫(義理の弟)が妻に姦淫したから。舐めてしまった兄弟は禁忌に穢れ、水底に隠れる石を探すと決めた。狙いの石を手にできた兄弟は、貝や硬木を加工して首飾りを作った。この成功で兄弟の笑いが変化した。それまでは笑いとは猛りの笑い征服の笑い、それが「犠牲となる側の笑い」すなわち精神の笑い(rire des ames)に変わった。そんな笑い方など聞いたことのない妹と義理の弟は、妹を遣わし小屋を覗かせた。女は男屋を除いてはならない、これが第二の禁忌破り。食客兄弟は出来上がった装身具を姻族の皆に配り、火に飛び込んだ。かろうじて残った兄弟達は飛び上がって金剛インコに変身した>
妹を妻に出した側の兄弟が、その妹を通して義理の兄弟の収穫を「当然の取り分」として要求している、食客です。M16のクラサカイベが不等価交換を強要した背景に、妹(姉、娘でも)を出した側の権利を要求しているのか。であるなら非礼ではない。
良き作法のソナタ1の了(2107年10月30日)
レヴィストロースを読む「神話と音楽」は10月10日から連載しています。過去投稿にも御高覧を。
レヴィストロース神話学の代表著作Le cru et le cuit(生と調理)を素人なりの理解で解説しています。素人とは哲学、文化人類学、言語学、フランス語において理解の浅さを自認しているに尽きます。さて、
第一楽章「テーマと変奏」に続いて第二楽章は表題「良き作法のソナタ」の通りです。
さっそく「悪しき作法」例が述べられます。基準神話M1において、ヒーローが母親を姦した。父から母を奪い取る行為で「悪い」作法。しかし父親にして妻に無関心(indifference)であって、これこそが「悪しき」作法で、結果、妻をして息子をそそのかし、その行動に追い立てたと、神話は仄めかしています。同様に、ジャガーの人間妻への無関心(=妻を殺すために弓矢を養子に与えるsequenceシーン。ジェ語族Kayopa族、M7,8の神話)。「ジェ語族の変奏曲」に述べられている。
「作法のソナタ」では侮蔑、拒否の行動を顕著に見せる神話を取り上げています。
神話16 Mundurucu族:origine des cochons sauvages(野生豚の起源)
(Mundurucu族はTupi語族に属すが居住地はジェ語族のKayopoに近接している)
挿画の解説:野生豚ペカリ。群れで行動し荒々しい気性から狩りは集団で。一人住まいの俗神がなぜペカリを手に出来るのか、この疑いから豚閉じこめの秘密がばれた。(本書の挿絵からコピー)
M18はKayapo族(ジェ語族の有力部族):野生豚の起源
=M16と同様のarmature骨格を持つ。ヒーローオインベは子を侮蔑した人々を豚に変えて閉じこめた。この過程はM16同様に進む。ある一人(妻の兄弟)が秘密を探り当て、毎晩、一頭ずつ盗んだ。ヒーローは怒って全頭を放った。
さて、M18でヒーロー(オインベ)は妻の出身部族、姻族に、子にとって母系に、その子をとおして食を無心した。一方、先に引用したM16ではヒーロー(カルサカイベ)は血族である己の姉妹、その子には叔母と連れ合い、子には夫系の集団に食物交換を乞うた。
不当価の交換(小鳥対豚一匹M16)、あるいは無心(M18)は非礼か?一方、姉妹は「夫が」狩った豚を小鳥と交換するを拒み、甥を侮蔑した。M18では妻の係累は無心を拒否した。非礼は無心か拒否か、どちらにあるのか。
レヴィストロースはさらに神話を引用する。
M20 ボロロ族:origine des biens culturels装身具の起源
<jadis les hommes du clan bokodori (moitie Cera) etaient des esprits surnaturels qui vivaient joyeusement dans de huttes, appelees<nid d’aras>. Quand ils desiraient quelque chose, ils envoyaient un des jeunes frères aupres de leur soers, pour qu’elle l’obtienne de son mari>(100頁)
拙訳:かつてcera部のbokodori支族の男達は超自然の精霊だった。金剛インコの巣と呼ばれた小屋に住み、毎日を楽しく過ごしていた。必要な物が出る度に、幼い兄弟を村に送り、妹(姉)に「夫が収穫したものから出してくれ」と無心していた。ここまでが引用分です。
続きは<(食客兄弟の)妹が渡した蜂蜜は泡がたち酸っぱかった。なぜなら採集の前に夫(義理の弟)が妻に姦淫したから。舐めてしまった兄弟は禁忌に穢れ、水底に隠れる石を探すと決めた。狙いの石を手にできた兄弟は、貝や硬木を加工して首飾りを作った。この成功で兄弟の笑いが変化した。それまでは笑いとは猛りの笑い征服の笑い、それが「犠牲となる側の笑い」すなわち精神の笑い(rire des ames)に変わった。そんな笑い方など聞いたことのない妹と義理の弟は、妹を遣わし小屋を覗かせた。女は男屋を除いてはならない、これが第二の禁忌破り。食客兄弟は出来上がった装身具を姻族の皆に配り、火に飛び込んだ。かろうじて残った兄弟達は飛び上がって金剛インコに変身した>
妹を妻に出した側の兄弟が、その妹を通して義理の兄弟の収穫を「当然の取り分」として要求している、食客です。M16のクラサカイベが不等価交換を強要した背景に、妹(姉、娘でも)を出した側の権利を要求しているのか。であるなら非礼ではない。
良き作法のソナタ1の了(2107年10月30日)
レヴィストロースを読む「神話と音楽」は10月10日から連載しています。過去投稿にも御高覧を。