蕃神義雄 部族民通信

レヴィストロース著作悲しき熱帯、神話学4部作を紹介している。

鬼灯を遠くに投げての五回目を上梓

2008年11月11日 | 小説
連続五回目です。
一歳半で早死にした林太郎、自宅の居間に安置された。そこに駆けつけたのは林太郎の霊、しかし年齢は二十歳の姿です。その林太郎がお迎えの火砕流に巻き込まれ、降り立ったのが三途の川の畔、川守セートに導かれるまま眼にした光景が…
全体で七十二枚(四百字)換算です、その一部をここに載せます。全体(および既掲載分)を読みたい方はブックマークからHPの部族民通信に入ってください。

では三途の川下りの段を下に

>ここで不思議な光景がくり広がった。渡しの舟が流れ緩い瀞に入った時に、舷に水面から手が伸びたのである。骨と皮だけの痩せた手が、何本か舟の舷をつかんだ。その主は水面から顔を出し、ようやく息を継げた。そして舟にすべり入ろうと試みた。この渡し舟は長さも四メートルほど。幅は一メートルも無い。そのように下から舷をひかれると、その重みで傾く。面から二本の手が、取から一本の手が。舟は進むのがままならず、しかも水面近くに沈み込んだ。このままでは冥土に行き着く術なく沈没だ。
セートは舷の手を水棹で強くピッシと叩いた。手の主から舟舷がすべり離れ手云った、セートはさらに棹を差し急いだ。

「今の手は」
「林太郎霊、驚いたろう。三途の川の土左衛門だ。
彼らは亡者で、事もあろうに引導を拒み娑婆に戻るといって渡し舟から川に向かって飛び込んだ。しかし引導渡し場に泳いでは戻れない。ああやってプカプカと瀞に瀬に泳ぎ続けている」<
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詩を4編、矢車菊(やぐるまそう)への巡礼など

2008年11月04日 | 小説
4編とも長編です、全編をここに掲載できません。そのうち短めの「高橋クンからの小包」を下に。全4編を読みたい方はHP部族民通信へ(左のブックマークから入ってください)

高橋クンからの小包

ある日私は小包を受け取った
差出人がなかったので気になったが
開封したら友人の名前でメモが入っていた
しかし友人は二十年前に死んでいる。
悪質なイタズラと怒ったが内容が気になった。
高橋クンを騙ったメモはこんな話だった、
ある朝に身体がきしみ出す、肉が縮まり
骨は元の大きさのまま、肉と骨の軋轢で
関節が痛む。一気に耐えられない痛さに進行する
その痛みは五分後に訪れる死の前兆で
生きるか死かの間際には息をするのも耐えられない。
その痛みの頂点でうれしいことに息絶える。

そのことを思い出したのは
今朝目覚めたら関節のあちらこちらに
しぶしぶときしみ痛さを感じたからだ。

メモは確かこう続いた、
茨の棘を一針送る。棘を頭に刺し埋め、その痛さが憎しみに変わりそして骨の苦しみを祝福する。針先に塗り込められた草露の一滴が裏切り肉に毒を注ぐ。関節の痛みはやわらぎ、お前は安らかに死ねると。

俺にはもう五分しか残らないのか、
早速小包の茨の棘針を試す事にした。だが遅かった
私はもう床から起きあがれない。這いずりもできない
関節も骨も肉も締め上げられる痛さに悲鳴をあげる。

枕元の家人に伝えた、
高橋クンが五年前に送ってきた茨の棘が欲しいと
家人はそんな物はないと即答した
その横に座る私の知らない誰かに「とっくに死んでいる友人の名前まで出しているワッハッハ」と声かけた。
意識混濁が始まったのです。もう終わりですな、あと数分ですよと横からしたり声が聞こえた。皆が生き生きとはしゃいでいるようだ。

あの高橋クンが死んでから送ってきた茨の棘だよ。注射針みたいに先が光っている棘。それを頭頂に差し込むと体中のきしみが消える。試したいのだ。体中が痛い、お願いだ。高橋クンからの茨の棘を出してくれ。

家人は私の手を揺すったり背中をさすったりした。そんな事するなよ、余計に痛いじゃないか。早くタカハシクンだよ、

しっかりしてお父さん、高橋さんは二十年前に死んでいるのよ。手紙が来るわけ無いのよ。
痛いとか聞こえたけどまだ諦めないで。頑張れば山を越せると横でセンセイが励ましてくれている。痛みを我慢するのよ。我慢するのよ。 
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