(2020年6月30日)
congruenceなる語の意味を探る;
レヴィストロース著神話学の全4巻でcongruenceは頻繁に引用されている。その意味を彼が語ることは無いが小筆は「2の異なる形状で表出しているモノながら本質は同一」と理解する。神話主人公の本質は世界創造者です。火を発見した主人公もいれば狩りの技法を盗んだ者もいる。それらの形式は異なるしかしながらcongruenceとして同一である。この同一追求の「知性」が先住民の医術、その論理背景を解く鍵でもある。
ではcongru...の思考作用はどのように働くのか。構造主義家元からの説明は無いから部族民が想像をまじえ、説明する;
異なる2の物は形状の違いは認めるものの、幾分かの似通いが感知される場合はあるだろう。例えば重なる現象、消失と出現の経時的連続性などに類似analogieを(先住民が)働かせるとも推察する。こうしたある程度の類型を捜し、因果を設定し2のモノを紐つける。これをして具体科学の「知的」の規範となります。この知性を働かせてキツツキの嘴と人の歯痛を結びつける共通の本質を探った。熊の屎と頭痛にも同様にcongru..が、その過程を取り上げる能はないが、認められた筈だ。
身近なcongru..の2例を挙げる。西欧中世のマンダラゴラ伝説。
根が二股に分かれ形状は人、特に男に似る。言い伝えで横死した男の精が地に育ったと信じられていた。薬効は強壮。ここでは形態近似で類推による共時因果を想定している。
西洋中世にて人の化身とされたマンダラゴラ根っこ、ネットから
日本、菅原道真などの「死に様伝説」。怨みを残して死ぬと祟る。道真の死後まもなく天候不順、落雷が京を脅かした。憤死と飢饉には連続性があった、これをして経時因果があったと人々が類推した。死と飢饉の2の形には恨みが根底に潜む。よってcongru..が認められる。日本語はこれを「祟り」と教える。
一方でこのような「科学」の因果関係は証明されていない、迷信であり治療には役立たないとの指摘は強い。対してレヴィストロースは答える。
>Mais precisement son premier objet n’est pas d’ordre pratique . Elle repond a des exigences intellectuelles au lieu de satisfaire a des besoins.(21頁)訳;しかしながら厳格にいえばその(治療するという行為)目的は現実的効果(治癒)を狙う為ではない。 その行為は知的圧力に応えるのであって、治癒の求めを満たす為ではない。
強壮の効能があると信じられるが、煎じ飲んで効果がでなくても、それによって横死男の化けとのcongruenceが否定されるわけではない。
医療行為ではない、世界を表現する必要性(exigences intellectuelles知的圧力)に駆られた結果だとしている。知的圧力とはなにか。
キツツキの嘴で歯痛を治す行為は>faire aller ensemble le bec de pic et la dent de l’homme<歯と嘴を共に去らしめる行為と(民族誌の記述からして)尊師は規定した。未開医術の根底には具体科学の知性が働く(前述)証拠として> dont la formule therareutique ne constitue qu’une application hypothetique , parmi d’autres<その治療の手法は色々ある中でこの組み合わせしかないとの事実をあげた。
キツツキ嘴の効能は歯痛にしか効かない。頭痛の訴えには熊の屎を投じる、決してタヌキの屎ではない。一の医用素材は一の症例にのみ有効である。なぜか、congru..、本質での一致がなせる為である、としている。近代医学では薬は症状に効果をもたらす。症状が「痛み」であれば神経の炎症が原因となり、炎症を和らげる薬を処方する。同じ薬なれど頭痛にも歯痛にも効能を保つ。一薬多症は西洋医学の知性である。とは言え頭痛の訴えにオータ胃酸を処方する医師に出会ったら、通院を控える決断が長生きの秘訣となる。
先住民がこの土俗医療の技法を用いるのは痛みや震え、不妊を治すのではなく、彼らの思考が作り上げたモノ世界の正統性を確認するため(と先住民は思考している、レヴィストロースがかく分析した)。知的圧力とは世界観の正統性を確認する願望なのだ。
具体科学はモノの有様を巡る知性体系で、PenseeSauvageなる思考の根源となる。ここでその知性の廻り具合をおさらいしよう;
どのようにして世界観を形成するのか、イヌとタヌキを例にとる。
四つ足がたくさんいる。それらの姿formeが似ている。類推analogieによる統合integrationが働いて、こいつ等をまとめて同じ種とし、イヌと名付けよう。しかし良く観察すると異なる点も多い。未開人ならではの知性の鋭さが観察を深め、各部位の分析を始める。尻尾巻きと尻尾垂れ、デカとチビ。それぞれにアキタ、シェパード、シバと名づける(morphologie)。これらイヌ軍団にどのようにanalogie、morphologieを駆使しても属しない個体がまぎれている。面倒だからそれタヌキとしよう。山に登ったらタヌキに幾度も出会った。かくして敷延(globalisation)なる知的作業をへて宇宙というモノ世界にイヌ、タヌキが組み込まれた。イヌとタヌキという思想がモノ世界を裁断(decoupage)した瞬間である。
具体科学が向かう先とは何か;
>Par le moyen de ces groupements de choses et d’etres, d’introduire un debut d’ordre dans l’univers<(21頁)これらのモノと存在の集合化(上の文で述べている知的作業のコト)をとおして宇宙に秩序の先駆けを導入することなのだとある。
続く
congruenceなる語の意味を探る;
レヴィストロース著神話学の全4巻でcongruenceは頻繁に引用されている。その意味を彼が語ることは無いが小筆は「2の異なる形状で表出しているモノながら本質は同一」と理解する。神話主人公の本質は世界創造者です。火を発見した主人公もいれば狩りの技法を盗んだ者もいる。それらの形式は異なるしかしながらcongruenceとして同一である。この同一追求の「知性」が先住民の医術、その論理背景を解く鍵でもある。
ではcongru...の思考作用はどのように働くのか。構造主義家元からの説明は無いから部族民が想像をまじえ、説明する;
異なる2の物は形状の違いは認めるものの、幾分かの似通いが感知される場合はあるだろう。例えば重なる現象、消失と出現の経時的連続性などに類似analogieを(先住民が)働かせるとも推察する。こうしたある程度の類型を捜し、因果を設定し2のモノを紐つける。これをして具体科学の「知的」の規範となります。この知性を働かせてキツツキの嘴と人の歯痛を結びつける共通の本質を探った。熊の屎と頭痛にも同様にcongru..が、その過程を取り上げる能はないが、認められた筈だ。
身近なcongru..の2例を挙げる。西欧中世のマンダラゴラ伝説。
根が二股に分かれ形状は人、特に男に似る。言い伝えで横死した男の精が地に育ったと信じられていた。薬効は強壮。ここでは形態近似で類推による共時因果を想定している。
西洋中世にて人の化身とされたマンダラゴラ根っこ、ネットから
日本、菅原道真などの「死に様伝説」。怨みを残して死ぬと祟る。道真の死後まもなく天候不順、落雷が京を脅かした。憤死と飢饉には連続性があった、これをして経時因果があったと人々が類推した。死と飢饉の2の形には恨みが根底に潜む。よってcongru..が認められる。日本語はこれを「祟り」と教える。
一方でこのような「科学」の因果関係は証明されていない、迷信であり治療には役立たないとの指摘は強い。対してレヴィストロースは答える。
>Mais precisement son premier objet n’est pas d’ordre pratique . Elle repond a des exigences intellectuelles au lieu de satisfaire a des besoins.(21頁)訳;しかしながら厳格にいえばその(治療するという行為)目的は現実的効果(治癒)を狙う為ではない。 その行為は知的圧力に応えるのであって、治癒の求めを満たす為ではない。
強壮の効能があると信じられるが、煎じ飲んで効果がでなくても、それによって横死男の化けとのcongruenceが否定されるわけではない。
医療行為ではない、世界を表現する必要性(exigences intellectuelles知的圧力)に駆られた結果だとしている。知的圧力とはなにか。
キツツキの嘴で歯痛を治す行為は>faire aller ensemble le bec de pic et la dent de l’homme<歯と嘴を共に去らしめる行為と(民族誌の記述からして)尊師は規定した。未開医術の根底には具体科学の知性が働く(前述)証拠として> dont la formule therareutique ne constitue qu’une application hypothetique , parmi d’autres<その治療の手法は色々ある中でこの組み合わせしかないとの事実をあげた。
キツツキ嘴の効能は歯痛にしか効かない。頭痛の訴えには熊の屎を投じる、決してタヌキの屎ではない。一の医用素材は一の症例にのみ有効である。なぜか、congru..、本質での一致がなせる為である、としている。近代医学では薬は症状に効果をもたらす。症状が「痛み」であれば神経の炎症が原因となり、炎症を和らげる薬を処方する。同じ薬なれど頭痛にも歯痛にも効能を保つ。一薬多症は西洋医学の知性である。とは言え頭痛の訴えにオータ胃酸を処方する医師に出会ったら、通院を控える決断が長生きの秘訣となる。
先住民がこの土俗医療の技法を用いるのは痛みや震え、不妊を治すのではなく、彼らの思考が作り上げたモノ世界の正統性を確認するため(と先住民は思考している、レヴィストロースがかく分析した)。知的圧力とは世界観の正統性を確認する願望なのだ。
具体科学はモノの有様を巡る知性体系で、PenseeSauvageなる思考の根源となる。ここでその知性の廻り具合をおさらいしよう;
どのようにして世界観を形成するのか、イヌとタヌキを例にとる。
四つ足がたくさんいる。それらの姿formeが似ている。類推analogieによる統合integrationが働いて、こいつ等をまとめて同じ種とし、イヌと名付けよう。しかし良く観察すると異なる点も多い。未開人ならではの知性の鋭さが観察を深め、各部位の分析を始める。尻尾巻きと尻尾垂れ、デカとチビ。それぞれにアキタ、シェパード、シバと名づける(morphologie)。これらイヌ軍団にどのようにanalogie、morphologieを駆使しても属しない個体がまぎれている。面倒だからそれタヌキとしよう。山に登ったらタヌキに幾度も出会った。かくして敷延(globalisation)なる知的作業をへて宇宙というモノ世界にイヌ、タヌキが組み込まれた。イヌとタヌキという思想がモノ世界を裁断(decoupage)した瞬間である。
具体科学が向かう先とは何か;
>Par le moyen de ces groupements de choses et d’etres, d’introduire un debut d’ordre dans l’univers<(21頁)これらのモノと存在の集合化(上の文で述べている知的作業のコト)をとおして宇宙に秩序の先駆けを導入することなのだとある。
続く