(7)
週末、土曜日の午後、ミックの家に電話をした。
エビを買って持って行こうと思ったのである。
電話に出たのは、ミックでなく、奥さんだった。
初対面?だと思ったので、挨拶をしていたら、
「クラブで何度かお会いしましたよ」と言われたが、どの人がそうなのか思い当たらない。
「エビを持って行きます」と言ったら、
「すでにマリネしたエビが、冷蔵庫に入っていますので、買って来る必要はありませんよ」ということだった。
「6時ごろ、主人が、お迎えに参りますので、よろしく」と言った。
ミックの家族が住んでいるアパートは、マキキのヒルサイドにあった。もちろん、初めての訪問である。
玄関のドアを開けると、迎えに出て来たのは、娘さんのようだった。
背が高く、ほっそりして、可愛い顔をした小学校の6年生ぐらいかなという感じだった。
お父さんの紹介で、
「こちらは、ミスター・ヤマダ!」と言うと、彼女が、
「私、ジョアンです!」と挨拶した。
白くて、ほっそりした右手が伸びてきた。握手しながら、お互い、
「はじめまして!」とか、初対面の挨拶をした。
持ってきたナパワイン、ロジェとホワイトの2本を彼女に渡した。
「どうもありがとう!」
大人びた彼女の振る舞いは、日本的に言うと、「ませた」大人の感じだった。
パーティと言っても、大勢の人がやって来るわけではない。
家族3人と、料理に詳しいという奥さんの友だちとトシの5人である。
まあ、「夕食会」といった雰囲気だろうか。
アメリカでは、自分の家族と別の家族が、一緒に、週末、ディナーを共にすることは、よくあるのである。
偶々、トシがミックに出会い、ジョヴァンニで、ガーリックシュリンプを食べたという話をしたことから、彼が、家に帰って、奥さんにそのことを話した。
奥さんは、家で作ってみようか、と「シュリンプを食べる会」みたいなものを思いついたのだろう。
ついでに、トシまで、招待されることになってしまった。
もう一人のゲストは、年の頃40歳ぐらいか、独身で、何かの専門職に携わっている人のようで、気さくで、快活な女性だった。
奥さんが、
「こちらは、マリーですよ!」と紹介してくれたが、元の名前は、Marie なのか、Marian なのか、Maria なのか、どれだろう。
結局、娘さんのジョアンも含めて、5人全員が台所に集まり、「ガーリックシュリンプ」の作業にとりかかった 。
ちょっと動こうとすると、誰かにぶつかる。
その度に、「アッ!スミマセン」
「ゴメン!」とか言いながら、賑やかだった。
持って行ったワインのボトルの一本は、既に開けられていて、大人たちは、グラスを左手に持ちながらの作業である。
取り仕切ったのは、マリーである。作業手順を説明しながら、一人一人に指示を出していた。
トシにも、適当に、
「ブロッコリを湯がいてくれる?」とか、指示が下ってきたのである。
以下は、マリーがメモしてくれた「ガーリックシュリンプ」の作り方である:
材料と作り方:
クルマエビ (一人当たり 8尾 ) を予め、脊を割り、背ワタを取 る。
それをボウルに入れ、おろしニンニクとおろし玉ねぎ、オリーブオイル、 クレイジーソルト、ブラックペッパー、ドライハーブ、バジルなどを加えて、数時間冷蔵庫で寝かせる。
ライスクッカーでご飯を炊き、大皿に載せる。
皿の端には、マッシュドポテイト、野菜サラダ、パイナプル、スライスレモンなどを添えておく。
ひと揃い、準備ができてから、一気にガーリックシュリンプを料理する。
フライパンにオリーブオイルをひき、頃合いを見て、マリネしたエビを入れる。
その時、ボウルに残ったマリネ汁を加える。
あまり強い火加減でない方がいいとのことである。
さらに、にんにく、玉ねぎの細切りを加え、出来上がり直前に、白ワイン、レモン汁をかけ、ねぎのみじん切りを振りかける。
そして、こんがり焼きあげていくと、香ばしいかおりが起ちこめてくる。
嫌がうえにも、食欲が膨らんでくるはずだ。
ジョアンも、
[ワアァ!おいしそうだ!早く食べたい」
テラスの急こしらえの食卓で、夕日が落ちていくのを眺めながら、ガーリックシュリンプのディナーを楽しんだのである。