(妙法寺の境内)
ハワイに行くたびに妙法寺(Myohoji Temple)に行くことにしている。マスイさんが眠っているところである。
初めて訪れた時、先代の住職にお会いした。トシのことをハワイの住人と思ったのか、英語で話しかけてきた。もうずいぶんハワイに住んでいるようでかなり上手な英語だった。しかしすぐに日本人だとわかって日本語に切り替えた。出身は九州の佐賀だということで、ちょっと佐賀弁だった。
この前、妙法寺を訪ねた時、跪いてお祈りをしていたら、後ろの方で何かの気配を感じて振り返ると、法衣をまとった人がこちらを見ていた。
「お詣りですか?」
「ハイ、友人が眠っていますので」
マスイさんのことを話すと、「あのような有名な方をお祀りできて光栄です」と言われた。
この方は新しい住職で、まだ若い人だ。
「佐賀のご出身ですか?」とつい言ってしまった。「いえ、神奈川県の鎌倉の出身です」
山村尚正(ヤマムラタカマサ)さんだった。東京の音大を出て、ロータリーの奨学金を得てイタリアに留学した。もともとはテノール歌手なのである。
2002年に、新国立劇場でデビューして以降、日本はもとよりハワイでも活躍していて有名な方である。さらにはイタリアやオーストリアなどヨーロッパでもコンサートに出演している。
ハワイのオペラシアターに出演しているのは新聞で読んだことがあった。ブライスデールのコンサートシアターに貼られたポスターを見たことがあるが、黒髪のふさふさした如何にも歌手の風貌なのだが、目の前にいる同じ人は頭を丸め法衣をまとっていて、お坊さんそのものだった。
一方では仏門でハワイの妙法寺を守り、この分野でも広く活躍されていて、変わり種と言ってしまえば、そうかもしれないが、尊敬すべきお人なのである。
「失礼します」と言って辞そうとしたら、「ちょっとお待ちください」と本殿のほうに入っていって、何か包みをもってこられた。
「これをどうぞ」と言って、その包みをくださった。
持ち帰ってよく見ると、日本、インド、中国などの国のお茶の詰め合わせだった。あとで家の仏壇に供えて恭しくいただいた。