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(アラモアナフッドコートのメキシコ料理)
ハワイに着いて、先ずはしなくてはならないことは、*市役所に行って、バスの定期の手続きをすること、2番目に、*マスイさんの墓参りをすること、そして3番目は、
*メキシコ料理を食べに行くことである。
別にメキシコ料理が、ほかのどの料理より好きということではない。今の日本では、どこに行っても、フレンチ、イタリアン、中華、エスニック料理などのレストランがあって、好みによってどこの国の料理でも食べることができる。
しかし、アメリカでよく行っていたギリシャ料理、地中海料理、メキシコ料理などレストランは、トシが住んでいる九州ではなかなか見つからないのである。
若い時、友人たちと誘い合ってよく行ったメキシカン・クジーンがなんとも懐かしいのである。 メキシコ料理も様々で、店内でマリアッチの演奏がある高級なものもあるし、そこらで立ち食いするようなごく手軽いものまである。
どちらかというとメキシコ料理は、身近で庶民的で、安いというイメージがある。腹がすいたら何となくメキシコ料理を思い出してしまう。タコスをほうばりながらメキシコビールのコロナを飲めば、満足だ。
ハワイに行ったら、まずメキシコ料理にありつきたいという気持ちがあって、つい馴染みのローカルなレストランの入って行くこともあるし、それこそアラモアナにあるフッドコートに行くこともある。
フッドコートは、いつ行っても人で溢れていて、空席が見つからないほど混み合っているが、そんなところでも気にしない。
どこかに空いた場所を見つけて、アンチラーダを運んできて、テーブルに座る。
メキシコ料理の何が気に入っているかと言えば、何でもいい。ケサディーヤ、アボカド・サラダ、チリベルディ、チーズディップ、アンチラーダ、トルティーヤ、タコスなど、どれでもいいのである。そのすべてに、日本にいた時は、味わいたくても、その機会がなかったメキシコ料理の漂う香りが目の前にある。
ハワイにいたころ、友人たちと何かの記念日などにウオードセンターにある「コンパルドス」に行っていた。
ここはメキシコレストランでもハイクラスで、中の造りなどラテンの雰囲気があり、時間によってはマリアッチの音楽が生で聴くことができた。
ここに行っていた理由が、仲間内の学生がウエイトレスのアルバイトをしていたからである。
予めその学生に電話で予約を入れておくと、海が見えるいい席を確保してくれたのである。そればかりか、最初にビールかマルゲリータを注文すると、近くの席のお客に料理を運んできたときに、さりげなくビールやマルゲリータを無料でもってきてくれた。
いつかカハラのチリズというメキシカンレストランの屋外テラスで食事をしていたら、隣の席にあの有名なミュージカル「南太平洋」「さよなら」「ハワイ」の原作者ジェームス・ミッチェナー夫妻が食事をしていたことがある。
彼であることを確認するために、こっそりトイレに行く風をしてレストランの中に入っていき、カウンターにいたマネジャーに尋ねてみると、「間違いなくジェームス・ミッチェナーさんです!」と教えてくれた。
新聞記事から彼の年齢を計算したら、その時は76歳だった。二人の会話の中で、一緒に座って食事をしていた女性を、盛んに「マリ!」と呼んでいたのでその女性はまぎれもなく奥さんのマリのようだった。
奥さんは、日本人か、あるいは日系人ということで、3番目の結婚相手だということだった。おそらくミッチェナーさんより10歳くらい若く見えた。
" Do not feed birds ! " (小鳥に餌をあげないでください!)と立札がテーブルに置かれていたが、そんなことに気づかないのか、パン切れを摘まんで小鳥たちに与えていた。何か話に夢中のようだった。
新聞を読んでいて、奥さんの名前が、Mari・Yuriko・Sabusawa (マリ・ユリコ・サプサワ)というのだと知った。食事の時、奥さんのことを「マリ!」と呼んでいたのを思い出した。
" Is Mari a Japanese or a Nikkei ? " (マリは、日本人なの、それとも日系アメリカ人なの?)と友人に訊くと、
" I don't know, but she speaks a fluent English. " (わからないが、英語は上手だよ)
" I know that, actually I heard her speaking English in such a fluent way. "
(それは知っているよ、マリが流暢に英語を話しているのを聞いたから)