マディと愛犬ユーリ、親友のクリスティ、それにハワイのこと

ハワイに住んでいたころ、マディという女の子が近所に住んでいて、犬のユーリを連れて遊びに来ていた。

ヘイゾウ・ナカムラ

2010-03-31 16:49:45 | 日記

 「ミスター・ヤマダーサン」は、変わった呼び方だが、思い出すことがある。
 ある教授から、
 「日本のことで論文を書いている学生がいるのだけど、助けてやってもらえませんか?」と言われたことがる。
 「いいですよ」と簡単に引き受け、その後は忘れていた。
 ある時、電話がかかってきて、
 「ハロー、私は、ヘイゾウ・ナカムラです」
 「平蔵?」
 エッ!、と思った。
 電話の向こうの声は、明らかに女性の声である。
 平蔵といえば、男の名前ではないか。
 「スイマセン!もう一度お名前を!」
 二度目に言った名前も、
 「ヘイゾウ・ナカムラです」
 何度も、聞き返すこのは失礼な気がして、
 「ところで、御用件は?」と聞くと、
 「スピッツマン教授の紹介で」と言われて初めて、思い出した。
 「一度、会っていただけると、うれしいのですが」
 「いいですよ、いつでも、どこでも」
 住所を訊いたら、トシの家のすぐ近くだった。
 「ミスター・ヤマダは、今、暇ですか?」というから、
 「ええ、別に用事はありません」
 「どこかで会っていただければ嬉しいです」
 近くのマクドナルドでもと思ったら、
 「私、近くのファースト・ハワイアン銀行に行きますので、そこで、ちょっとの間いいですか?」と言うから、
 「わかりました」

 ということで、約束の時間に、銀行に着いて、あちこち見渡すが、それらしい人はいない。
 トシが、きょろきょろしているのを遠くから見ていた人が、近づいてきた。
 ところが、むこうからやってきた人は、白人の女性である。
 「ミスター・ヤマダ?」というから、
 「そうです」
 「私、ヘイゾウ・ナカムラです」
 「ナカムラと言うから、てっきり日系の人かと思いました」
 「ハイ!、主人がナカムラです」
 「なるほど、そうなんですか」

 ちなみに、ヘイゾウのことも訊いてみた。何度聞いても、「平蔵」にしか聞こえなかった名前は、実は、「ヘイゼル」(Hazel)だということもわかった。

 逆の場合もある。
 日系の女性のメアリ・コマツという人が、トンプソンという人と結婚して、名前が変わり、メアリ・トンプソンになった人がいる。
 名前だけからみると完全に、あちらの人になってしまうことで、ミドルネームに、旧姓のコマツを残した人がいる。本人としては、日系であることのアイデンティティを残したかったそうである。
 したがって、「メアリ・コマツ・トンプソン」になり、「コマツ」が入ることで、他の人からも、この人は、日系だと判断できるというわけである。

 明治のころ移民してきて、名字が無かった人たちがいる。
 沖に停泊した船に、入国係官が来て手続きをした時、
 「名前は?」と言われて、名字が無いものだから、
 「貫太郎です」と答えたところ、
 係官が、勝手に、ファミリーネームを、「カン」にしてしまって、ファーストネームを「タロウ」にしたなどという話も聞いた。

 CNNのキャスターで、「タノナカ」という人がいるが、あるいは、移民時に、「タ」の「ナカ」と相手に分かりやすいように説明したのが、「タノナカ」になってしまったのかなあ、という気もする。


ミヤザキさんとハワイ

2010-03-30 07:50:23 | 日記

  ミヤザキさん(仮名)は、東京に住んでいるが、トシと会う場所はいつもハワイだった。
 この度は、スケヂュールが合わなくて、トシがハワイを去る前日にミヤザキさんの家族がハワイに着くことになってしまった。
 本当は、到着した日に会うことも出来たが、子供さんが病弱なのと、着いたばかりでは疲れているだろうと、またもう一つの理由が、トシの方が、知り合いの家族に送別のディナーに呼ばれていた。
 仕方なく、トシがハワイを去る当日に、少しの時間だが、
 「会いましょう!」という約束をした。
 トシは、午後1時50分発の飛行機で発つことになっていた。
 3時間前に空港に着く必要から、「ロバーツ・ハワイ」に電話をして10時半にホテルの前に来てもらえるようシャトルバスの予約をしていた。
 ミヤザキさんは、
 「お会いできるなら、朝どれだけ早くてもいいです」と言ってくれたので、
 「では、8時に私の方からホテルを訪ねます」ということにした。
 当日は、束の間の会合が実現したのは、幸いだったが、もう少しの期間、ハワイでのお付き合いができていればと後悔の気持のほうが大きかった。

 もう、ずいぶん前になるが、44階の細長く、空に突っ立ったような建物のコンドミニアムに滞在していた。
 その時は、39回かその辺りの部屋に滞在していて、展望はよかったのだが、エレベーターが2つしかなく、ボタンを押してもなかなかやって来なくて、不便だなあ、といつも思っていた。
 下に降りようとエレベーターに乗っていた時、途中の階で、男性が乗って来た。日本人かなあと思ったが、以前、日本人を外人と思ってしまって英語で話しかけた失敗から、簡単には話しかけられないので、ちょっと、会釈してあいさつした。

 数日経って、また、エレベーターでその人に出くわした。
 下の階のロンドリーに行くようで、それらしい大きな袋を持っていた。
 今度は、思い切って日本語で、
 「日本の方ですか?」と声をかけてみた。
 「ハイ!、そうです」と言ってからは、急に、よそよそしかった顔がほころび、笑顔を見せた。
 その後、いくらか会話をしたように思うが、よくは思い出せない。
 その人の名は、ミヤザキと言った。

 後日、ハワイの友人たちと、海岸をおしゃべりしながら、歩いていた時、偶然、ミヤザキさんの家族に会った。
 奥さん、子供さんに会うのは、その時が初めてだった。
 英語と日本語のちゃんぽんだったが、友人たちもなんとか、親しげな態度で接したこともあり、打ち解けたような感じで会話が始まった。
 トシの友人たちは、固より、日本語を理解しないし、ミヤザキさんの方も英語を理解できないようだったが、なんとなく和気あいあい、会話が弾んで行ったように思う。

 その後は、家族ぐるみでお付き合いが始まって、日本に帰っても手紙などで、お互いの近況などを知らせ合ったりしていた。
 当時は、仕事の関係で、トシの方も、ミヤザキさんの方も夏の時期にハワイに行くようにしていた。

 ミヤザキさんは、東京のある料理学校の先生をしていて、時々はテレビにも出るようだった。
 子供さんが、少し病弱で、
 「子供が喜ぶので」ということと、子供さんの静養のために、毎年、夏に休暇を許してもらって、1カ月くらいハワイで過ごす、ということであった。
 そのためには、休日出勤をしたり、お金を貯えたりの努力をしているようだった。
 トシとミヤザキさんの家族は、一年に一度は、ハワイで出会うことを楽しんでいたが、ある年の夏、お互い連絡が十分でないまま、ハワイに来てしまい、
 「今年は、ミヤザキさんにも会えないかなあ」と思っていた。

 ヒルトン・ハワイアン・ビレジの海岸で、金曜日の夜8時に、恒例の花火大会があって、観光客など大勢が集まる。
 トシは、たまたま、そのとき、花火を見にでかけていた。
 夜だから、必ずしも、足元が明るくはなかったのだが、人込みをかき分け、ミヤザキさんが、
 「ヤマダさーん!」と大声を出しながら近寄って来た。
 「ヨカッタですね!ヤマダさんに会えましたよ!」とお互いの会合を喜び合った。
 奥さんの方が、
 「ヤマダさんは、花火を見に来るかもしれないから、あそこに行けば、ひょっとして、会えるかもしれないよ!」と言ったようで、旦那さんは、花火そっちのけで、トシを探し回ったということだった。
 花火が、「ドーン!ドーン!」と音を立てて上がる中で、
 「やはり、ヨカッタ!」

 料理学校は、毎年、研修旅行で、フランス、イタリアなどヨーロッパに行くようになっているようだが、ある年、ミヤザキさんは、自分のクラスの生徒を連れて、ハワイにやって来た。
 カピオラニ・コミュニティ・カレッジで「公開デモンストレーション」を行い、それがテレビで報道されたりして、生徒達も、
 「すっかり、ハワイが気に入ってしまったようです!」とミヤザキさんも大喜びである。

 

 


ハワイの草花とトーリのこと

2010-03-28 14:35:04 | 日記

 早朝バスに乗って、目指すはダンタウンだが、途中下車をしながら、あちこちで写真を撮る計画だ。
 普通では気付かないところに、ひっそりと草花が咲き誇っている。そんな草花を見つけては、この2,3日カメラに収めてきた。
 ハワイでの楽しみが、こんなところにもあるということを最近知ったのである。
 トシが、ハワイの草花の写真を撮りたいと思ったきっかけは、友達が自作したDVDである。
 全編、ハワイの木や花など植物の写真で埋まっている。名付けて「Seasons in Hawaii」というもので、そのまた友達のギタリストの演奏、バッハの曲が背後に流れていて、趣のある作品が出来上がっている。
 もう一つのきっかけは、日本で通っているパソコン教室の女性の人たちが、一様に花が好きで、山間や田んぼで見つけた名もない花などを見事に写し取って、ブログで発表している。
 話を聞いたり、それらを見ているうちに、啓発され、すっかり関心を持つようになってしまった。
 
 ハワイでは、日本のようには、寒暖の差がなく、一年中が同じような気候で、また、一年中花が咲き誇っているように思われるが、やはり、微妙に四季というものがあって、咲き方も違うようである。
 友達によると、四季によって、咲く花、咲かない花があって、時間の経過で花一つ一つの咲き具合が違ってくるそうである。
 関心を持って、それらを観察し続けるのは面白いということであった。
 このたびも、実際ハワイ大学のプリメラの並木を写真に収めようと行ってみたのだが、咲いていなかった。
 大学の人に訊くと、
 「今は、シーズンではなくて、もう一ヶ月もすると咲きますよ!」とのことだった。

 今日は、最終的には、ダンタウンの先にあるチャイナタウンで野菜などの買い物をして、出来れば、その近くでランチを取る計画にしていた。
 ただ、日本を出る時に買ってきた地元の銘菓「ぎおん太鼓」をトーリに手渡すことも計画に入っていた。
 州立図書館のトーリのオフィスに寄って、彼女の顔を見て、数分間でも会話をしたいと考えていたのである。

 いろいろな場所で、写真を取りながら回り道をして、図書館について見ると、開館が10時なのに、9時半には着いていた。
 図書館前の階段には、開館を待つ人たちが三々五々腰をおろして辛抱強く待つ態勢のようだった。
 それらの人に混じって腰をおろしてみたものの、10分もすると、もう待つのは止めようかという気になって歩き始めた。
 それでも、トーリのいる2階の窓の方を見ていたら、と言っても、下からは、窓の向うは暗くて、覗い知れないのだが、中からは、下の方で、トシが怪訝な行動をしているのを見ていたのか、
 「ハッ!」と窓が開く音がして、トーリの大声がこだました。
 トシは、もとより、びっくりしてしまったが、下を歩いていた人たちが、いっせいに、声の方向を見やった。
 みんなの視線を浴びても恥ずかしがるでもなく、大声で、
 「ミスター・ヤマダーサン!」と叫びながら、手を差し出してこちらに振っていた。
 「上がって来て!」
 「だけど、開館は10時なんでしょう?」
 「だから、10分待っていて!」
 本当を言うと、その時は、9時40分だから10分でなく、20分待つ必要があったのである。
 
 彼女は、以前からどういうわけか、トシのことを、
 「ミスター・ヤマダーサン!」と呼ぶ。
 アメリカ人は、お互い知り合って、ころあいを見て、親密度が増すと判断した場合、ファーストネームかニックネームで呼び合うようになる。だから、彼女が、トシのことを、「トシ」と呼んでもおかしくないのに、ずっと、「ミスターヤマダーサン!」で来ているのはなぜかわからない。
 考えて見ても、名前の前に一つと後ろに一つ敬称をつけるのはおかしい。「ミスター」がひとつと、後ろの「サン」がひとつである。
 だが、トシが訂正を求めないのは、あの、大声で呼ぶときの心地いい声の響きである。

 「ミスター・ヤマダーサン!」は、滑稽だが、いかにも聞いていて心地がいいのである。
 それを聞きたいがために、図書館にやってきたと言ってもいいかなあ。
 トーリは、大学院を出ていて、州立図書館のレファランス部門の専門職をしていている。

 開館して、すぐ二階に上がっていくと、満面の笑みで迎えてくれた。
 「ハロー、アゲイン!、ミスターヤマダーサン!」


カハラで将棋

2010-03-27 16:20:36 | 日記

 ブライアンは、自分一人では買い物ができない。奥さんに附いて来てもらうか、そうでなければ、過去に買い物で訪れたことがある店では、顔見知りの店員と会話しながら、何とか買い物ができるようである。
 「カハラの店にパンツを買いに行くから」
 「パンツというとズボンのこと?」
 「そうだよ」
 「それで?」
 「僕に附いて来てほしいの?」
 「いや、そうでなくて、2時にカハラに来れる?」
 「それは、いいけど」
 「将棋盤を持って行くから、パラソルの下で一局しない?」
 「それは、いい考えだね」
 「どこで待っていればいいの?」
 「ホールフッドの前ではどう?」
 「ホールフッド」というのは、食料品のスーパーマーケットだが、どちらかというと高級志向で高い店だ。
 というようなことで、二人のデートの段取りができた。

 カハラで、二人が待ち合わせる時は、大概、本屋ということに決まっているが、この度は、ホールフッドの前ということになった。
 本屋の場合は、いろいろな意味で便利がいい。どちらかが少し遅れても、立ち読みをしていれば、時間のことは気にならないし、本屋の中には、コーヒーショップもあり、コーヒーを楽しみながら時間をつぶすこともできるのである。

 約束の時間より10分ぐらい遅れて、ブライアンは、手に大きな袋をぶら下げてやってきた。
 「ここより中の広々したところがいいかもしれないね」
 ということで、屋内の円形ドームの下で、テーブルを挟んで座り、将棋盤を取り出し、準備を始めた。
 ブライアンが、近くのコーヒーショップに行って、プラスチックカップに入ったコーヒーを2杯買って来た。
 お互い、コーヒーを舐めながらの対戦である。
 段々、夢中になってきて、周りを全く気にしていなかったが、どうやら、人だかりが出来て、われわれの対戦を覗きこんでいるようだ。
 ここはアメリカ、普通は誰が何をしようが、あまり気にしないはずなのに、どういうことか。
 どうやら、チェスと違って、駒に漢字が書いてあって、それがどんなゲームなのか彼らの興味をひいたらしいのだ。
 誰かが代表するように、勇気を出して質問をしてくる。
 「チェスとどう違うのか?」など質問が飛んで来ると、
 ブライアンは、駒の動きを止めながらも、丁寧に答えている。
 「基本的には変わらないと思うけど、相手から分捕った駒を自分の戦力として利用することができるなど、いくつかの相違点はあるよ」

 先ほどから、東洋系の女性が三人、覆いかぶさるように顔を近づけていたが、英語ではない、どうやら中国語で顔を見合いながら会話をしている。駒の動きを熱心に追いながらの会話である。
 一人が、勇気を出したように話しかけてきた。
 どうやら、駒に書かれた漢字が彼女らの興味を引いたらしいのだ。
 「王将」、「銀」、「金」、「槍」など読んで意味が分かるので、それらがどのように動くのか、どんな戦力になるのか、がとても興味がある風なのだ。
 聞いてみると、香港からの旅行者のようで、カハラに買い物に来たということである。
 彼女らに対しては、今度は、トシが質問の回答者になって、英語で応対した。
 彼女らは漢字もできるし、英語も話したり理解できた。
 最後まで、勝敗を見たいということだったが、時間がないので、ということで名残惜しそうに去って行った。

 カハラモールに、ちょっとしたセンセイションを起こした感じだが、固より、そのようなことを求めて人前で将棋をしたわけではない。
 「なんか、将棋より、みんなとざわざわ話し合ったことのほうが多かったね」
 と思わず反省しあった。

 結局、勝敗は、トシが3勝、ブライアンが1勝しかできなかった。周りのざわつきで真剣勝負とはいかなかったようだ。


スポーツジムの女性マネジャー

2010-03-06 18:42:56 | 日記

  ブライアン夫妻と時々スポーツジムに行く。
 このジムは、ビルの高層部にあって、エレベーターで上がって行く。
 ほとんどのエクササイズの施設は室内にあるが、プールとジャグジーは外に広がったテラスにある。
 プールで泳いだり、ジャグジーでくつろいだり、本を読んでいたり、長椅子に体を伸ばし、顔にタオルを掛けて眠っている人などもいる。
 夕暮れ時、西の方向に太陽が沈んで行くのを見ることができる。おそらく、彼らにとっては、見慣れた光景だとは思うが、それでも太陽が没する瞬間など、動きを止めて、一斉に歓声を上げるのである。やはり、感動の瞬間なのだろう。
 目の前の大きな太陽が、少しづつ動いて行って、水面下に没する瞬間は、何度見ても得難い体験なのだろう。
 思わず横の人と顔を見合わせ、
 「素晴らしいですね!」と声をかけてしまうような気持になるのである。

 運動の施設は室内にあり、サウナ、風呂などがある。岩ブロみたいな大きな風呂もあるが、これが、信じられないくらいに深くて溺れそうなほどである。
 おそらく、日本のスポーツ施設と違うのは、寛げるロビーがあること、レストランからバーもある。時々、ライブの音楽もやっている。
 ロッカールームには、大きなスクリーンのテレビがあって、フットボールのイベントなどがある時には、素っ裸の男たちが、テレビを取り囲むようにして、歓声を挙げ、応援したりしている。
 腰にバスタオルを巻いた人はまれで、裸で両手のこぶしを付き上げながら、興奮している集団を見るのは、異様な風景で、こちらとしては、思わず後ずさりしてしまいそうな衝撃だが、彼らはいたって天真爛漫である。
 ロッカールームが、ちょっとしたサロンになっていて、長椅子やクッションで読書を楽しんでいる人などもいる。
 友達に出会うと、
 「やあ!、元気でした?」とか、素っ裸のままで握手を交わしているが、初対面の人を紹介しあうこともあって、トシなども、裸ままで、
 「お会いできて、光栄です!」とかの挨拶を交わしたこともある。 彼らにとっては、当たり前だろうが、トシには、まさに異様な空間である。

 ここの女性マネージャーは日本人である。
 東京に生まれて、3歳まで日本にいて、その後は、父親の勤務地、ニューヨークや南米などを回り、高校の時、日本に帰ったきり祖国とは縁がないそうである。
 今や彼女は、英語の世界にどっぷりで、彼女の中に「日本人らしさ」を見つけるのは、外見を除けば、皆無と言っていい。 アメリカ人以上に英語を操り、身のこなし、振る舞い、ゼスチャーすべてがアメリカ人そのものである。

 声は、大きいし、いつも笑顔で、話し相手を飽きさせない。社交的なのである。人ごみの中で、彼女の独特な声をが響いてくると、あそこに彼女がいるなとわかる。立ち居振る舞い、どう見ても彼女の中に日本人を感じ取るのは難しい。

 何度か、彼女と将棋をしたことがる。
 ジムに将棋盤や、道具一式があるのも不思議だが、どこからともなく、それらを出して来て、勤務中にもかかわらず、サロンの一番いい席を占領して、
 「トシ始めるわよ!」という。
 ほとんど日本とは接点がないと思われるのに、どうしてあんなにもスムースに日本語がしゃべれるのか不思議である。
 
 彼女は、どこにいても注目を浴びるので、将棋をしていても、周りに人が集まってくる。のぞき込むように見る人たちは、将棋を理解してのことではなく、彼女そのものに興味を感じているようだ。

 トシと対戦する時は、日本語で、周りの人たちには、大きな声と笑い声で、英語で解説しているのである。
 ブライアンとも対戦するが、この3人は、よくできたもので、実力はほぼ同じである。

 ある時、彼女の人柄、英語力、社交性、仕事の能力などを見た日本人の実業家が、彼女を「ヘッドハンティング」に来たということを聞いた。日本にいては、このタイプの人には出会うことはないと思う。