(3)
以前、マディとクリスティが、宿題のことで侃々諤々(かんかんがくがく)やっていたことがあった。
二人の共同作業でレポートを出すことになっていて、何をどうすればいいのかわからないようだった。
その時、トシに助け船を求めてきたので、いくつかアイディアを出したが、「消防士さんの一日」にしようということになったのである。
早速、ノートとペンを持って三人で車で15分ほどのところにある「カネオヘ」の消防署に行った。
その時のことは、よく覚えている。
消防署に着くと、マディとクリスティは、背伸びしながら顔を窓口に突っ込むようにして、オフィスの人に、自分たちが来た目的を説明していた。
窓口の人が受話器を取って、
「署長!小学生が、消防署についてレポートを書きたいとやってきていますが?」
そうすると、O.K.が出たのか、
「二階に署長室がありますから、そこに行ってください!」と言った。
二階に上がろうとしたら、署長らしき人が、すでに階段の上に仁王立ちするように迎えに出ていたのである。
トシも、なんとなく一緒に上がって行ったのだが、三人がやってくるのを見て、その人が大きな声で、
「ケイト!お客さんだよ!かわいいお嬢さんが二人と、そうでない人が一人!」叫んだのである。
ケイトという女性署員が、署内を連れて回り、説明するのを彼女らは、時に質問をしながらメモをしていた。
家に帰ってからが大変で、数字を表にしたり、グラフを描いたり、文章をまとめたりして、結構なレポートが出来上がったのである。
マディとクリスティの共同研究ということで、両名が署名して出来上がったレポートを提出した。
数日後、評価結果が出る日は、どうなんだろうと、トシとしても心配になっていたのである。
スクールバスが来て、20分後には、マディがクリスティと連れ立ってやってきた。
二人とも、なんか浮かない顔をして、うつむき加減でやってきたので、結果が良くないなと瞬間思ってしまった。
マディが、見覚えのあるレポート用紙をトシの目の前に差し出した。
表紙には、Post-It のラベルシールが貼られていて、手書きの大きな文字が見えた。
A+
Excellent! You both have done a good job!”
Mrs.Thomason.
(A プラス、すばらしいです!がんばりましたね!トマソン先生より)と書かれていた。
二人は申し合わせて、トシを心配させようと、浮かない顔をしてやって来たのだった。
はじけるように三人はケラケラ笑いだした。
それから誰からともなく、日本語で、「万歳三唱」( "banzai" three times )をしたのである。
" banzai " ( バンザイ! )は、試合に勝った時などに行う儀式だということを、マディとクリスティに教えていて、前に何度かやったことがあった。
今度の宿題は、「パフォーミング・ワーク」 ( performing work )のようで、二人は何をしようかと悩んでいた。
パフォーミングだから、絵を描いたり、工作をしたり、ダンスをしたり、歌を歌ったりなどのようだったが、二人は、この分野があまり得意でない。
「海岸で拾って来た貝殻で何かを作ったらどう?」と言ってみた。
本人たちも、「そうしようか」というところまで心を決めていた。
「ところで、日本の童謡を歌ってみるというのはどう?」
「日本語で歌うの?」
「でもいいし、1番を日本語で歌って、2番を英語というのはどうかな?」とか言ってしまったために、話は意外な方向に行ってしまったのである。
子供病院でボランティアをしていた時、ハワイ大学のシンクレア・ライブラリで、滝廉太郎などの童謡の英語版を見つけて、ひょっとして、子供たちに教えてあげようかと思っていたのである。
その中でも、特に、「赤い靴」が気に入っていて、トシ自身何度も練習をしていた。
赤い靴はいてた女の子、
異人さんにつれられていっちゃった
横浜のはとばから船に乗って
異人さんにつれらていっちゃった
は、郷愁をかき立てる、何か心に残るものだった。
静岡県の貧しい家に生まれて、横浜の外国人の家に養子に出され、当時は不治の病と言われた結核にかかり、9歳で死んでしまった可哀想な女の子の物語である。
The little girl used to put red shoes on.
She had gone accompanied by some foreigner.
She is said to have gone on board at Yokohama port.
She had gone accompanied by some foreigner.
マディもクリスティも、歌を歌うアイディアに食いついてきた。
トシも、その気になってきたが、なにしろ、マディもクリスティも、歌がうまくないというか、平気で音程を外して歌う、かなり音痴である。
まずトシが、ということで、イタリア民謡の「サンタルチア」をオペラ歌手が歌うときのように、朗々と?声を響かせて歌ってみせたのである。
半分を、日本語で歌うということに興味を持ったらしく、彼女らはすっかりその気になってしまった。
二人とも、度胸だけはあるので、クラス全員の前で歌うことは、緊張するまでもなく、むしろ喜んで歌うだろう。
しかし、みんなが、そしてトマソン先生が、どう評価するかである。
今度ばかりは自信がない。
( いつもブログを読んでいただきありがとうございます。
しばらく、おやすみをしなくてはなりません。、また戻ってきたら、よろしくお願いします )