マディと愛犬ユーリ、親友のクリスティ、それにハワイのこと

ハワイに住んでいたころ、マディという女の子が近所に住んでいて、犬のユーリを連れて遊びに来ていた。

" I wanna sell my 'Porsche' "

2014-10-26 09:52:28 | グレッグとレベッカ

 

(10)

( ポルシェの販売店 ) 

 メインにいるレベッカとニューヨークにいるグレッが自由に会える機会はそんなに多くなかった。
 お互い仕事があり、特にグレッグは、職業柄やたらに忙しく、週末でも休めない日が多いのである。
 それでも週末を利用して、メインとニューヨークの中間点のマンチェスターの町でデートをするようになってからもう2か月が過ぎていた。
 心からの愛をお互い確かめながら、日時は過ぎていった。
 夜電話で話すこともあったが、レベッカの場合、わざわざタイプでなく手書きの手紙を書いてよこした。かつてのアメリカの良き時代に、人々が書いていたような格調高い筆の使い方だった。児童文学者だけあって、手紙は、詩のように韻を含んで心に響いてきた。

 逐一レベッカのことは故郷の母には伝えていた。「一度一緒にジョージアに帰って来なさいよ!」と母から言われて、仕事の都合をつけ、思い切って休暇をとりレベッカを連れて行った。
 レベッカは、メインから飛行機で直接アトランタまで、グレッグは、ニューヨークのラガーディア空港から飛行機に乗った。
 アトランタ空港で待ち合わせの約束で、二人は空港のロビーで会うことができた。空港まで母親が車で迎えに来てくれた。何か月ぶりだろう母親に会った。いつもの笑顔で、体いっぱいのしぐさでハグしてきたのである。
 
 父母は、アトランタの病院で医者をしている兄も呼び寄せ、家族でささやかな夕食会をしてくれた。
 もちろん冗談だが、あれほど「ヤンキー娘と結婚するのではないよ!」と言っていた母だが、レベッカを見るなり大喜びで、すっかり気に入ったようなのだ。
 いかにも知的で、上品で、その上美人ときていた。
 母は、お喋りだが、レベッカも話し上手聞き上手で、母の話に耳を傾ける様子は以前からの知り合いのようだった。
 母とレバッカは、話が合うようで、家のどこかに場所を変えながら二人は話し込んでいた。
 母は、自分の家の家系は、医者ばかりで、およそ文学を解したり、絵画を愛でたりする人がいないと、しみじみ言ったものだ。
 その点、レバッカは、別世界から来た人のようだった。文学に造詣が深く、すでに文学作品も世に著わしていて、自ら詩を書いたりもする、そのような彼女と話ができる母は、いかにも幸せだという顔をしていたのである。

 「あの娘は気立てのいい子だわね!」と母は言った。
 以前、グレッグは、同じ医者を志す女性と付き合っていた。
 母も、この子が我が家に嫁に来てくれる人だと信じていたようだったのである。しかし、お互いが就職した場所が離れすぎていて、遠距離恋愛になり、そうこうするうちに少しづつだが、心が離れ、遠ざかっていった。
 そのことについては、その後、母も話題にすることがなくなっていた。

 

 


" Date with Rebecca " ( レベッカとデート )

2014-10-07 10:29:08 | グレッグとレベッカ

 

(9)

 

 

                                           

 

 グレッグはニューヨークに帰って来た。
 あの島で過ごしたことがまるで夢のように思い出された。映画を見るようで、その主人公が自分だと思えなかったのである。
 ニューヨークでは、毎日が忙しかった。
 以前と同じように毎日がせわしなく過ぎていったのである。急に現実に連れ戻された感じで、グレッグは戸惑っていた。
 レベッカのことを想った。彼女のちょっとした仕草やさり気なく交わした言葉などが、懐かしさをもって脳裏に浮かんできた。
 一日の仕事を終えて家路につくときなど、いつものようにデリカテッセンで夕食の材料を買ったり、コーヒーショップや「イーツ」( Eats )と言う食堂で食事をしていても、いかにも味気なった。レベッカとレストランでワインを飲み、港の風景を見ながら食事をし、楽しく会話を楽しむ自分を想像した。
 
 それでも、毎日の仕事は切りがないほどやってきた。
 朝の9時になると、予約の患者が次々に訪れた。毎日のこととはいえ、いつもスムースに仕事が捗るというわけではなかったのである。
 患者は、いつもわがままで、得手勝手である。不必要に自分の病状を細々解説するひと、訳のわからない要求をしてくる人、この薬を処方してくださいと薬だけを要求する人など、それらの人たちに対応するのはいつものことながら辟易した。

 それでもレベッカとの交信は何らかの形で続いていた。会えないだけ、むしろお互いの気持ちは深まっていくようだった。
 おそらく彼女は、エミリー・ディキンソンの詩を読んだことはなかったと思うが、自分の気持ちをディキンソンの詩に託して送ってきた。

 "  I held a jewel in my fingers
      And went to sleep.
      The day was warm and winds were prosy.
      I said: '''T will keep''
  ( 私は宝石を手に持ち、眠りについた。
    その日は温かく風は穏やかだった。
    ’これを手放さないわ’と私は言った。 )

 週末、以前だと自分から病院に出かけて、雑務を処理したり、研究したり、別の医者に代わって自ら勤務をすることもあったが、今では、できるだけレベッカのことを優先して考えたい気持ちだった。
 メインとニューヨークの中間あたりにあるマンチェスターで彼女と会うことができた。
 レベッカも、車を運転してグレッグに会うため、マンチェスターまだやってきた。
 ふたりは週末のデートを楽しんだ。手をつないで街をぶらぶら歩くだけでも、グレッグにとって、この上ない喜びだったのである。
 
 レベッカがグレッグに会いに行くことを知ると、区長は、グレッグ宛ての手紙と書類をレベッカに託した。
 まるでもうグレッグが、島の住人になるのを予定しているかのように、区長は将来の計画を進めているようだった。