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( ポルシェの販売店 )
メインにいるレベッカとニューヨークにいるグレッが自由に会える機会はそんなに多くなかった。
お互い仕事があり、特にグレッグは、職業柄やたらに忙しく、週末でも休めない日が多いのである。
それでも週末を利用して、メインとニューヨークの中間点のマンチェスターの町でデートをするようになってからもう2か月が過ぎていた。
心からの愛をお互い確かめながら、日時は過ぎていった。
夜電話で話すこともあったが、レベッカの場合、わざわざタイプでなく手書きの手紙を書いてよこした。かつてのアメリカの良き時代に、人々が書いていたような格調高い筆の使い方だった。児童文学者だけあって、手紙は、詩のように韻を含んで心に響いてきた。
逐一レベッカのことは故郷の母には伝えていた。「一度一緒にジョージアに帰って来なさいよ!」と母から言われて、仕事の都合をつけ、思い切って休暇をとりレベッカを連れて行った。
レベッカは、メインから飛行機で直接アトランタまで、グレッグは、ニューヨークのラガーディア空港から飛行機に乗った。
アトランタ空港で待ち合わせの約束で、二人は空港のロビーで会うことができた。空港まで母親が車で迎えに来てくれた。何か月ぶりだろう母親に会った。いつもの笑顔で、体いっぱいのしぐさでハグしてきたのである。
父母は、アトランタの病院で医者をしている兄も呼び寄せ、家族でささやかな夕食会をしてくれた。
もちろん冗談だが、あれほど「ヤンキー娘と結婚するのではないよ!」と言っていた母だが、レベッカを見るなり大喜びで、すっかり気に入ったようなのだ。
いかにも知的で、上品で、その上美人ときていた。
母は、お喋りだが、レベッカも話し上手聞き上手で、母の話に耳を傾ける様子は以前からの知り合いのようだった。
母とレバッカは、話が合うようで、家のどこかに場所を変えながら二人は話し込んでいた。
母は、自分の家の家系は、医者ばかりで、およそ文学を解したり、絵画を愛でたりする人がいないと、しみじみ言ったものだ。
その点、レバッカは、別世界から来た人のようだった。文学に造詣が深く、すでに文学作品も世に著わしていて、自ら詩を書いたりもする、そのような彼女と話ができる母は、いかにも幸せだという顔をしていたのである。
「あの娘は気立てのいい子だわね!」と母は言った。
以前、グレッグは、同じ医者を志す女性と付き合っていた。
母も、この子が我が家に嫁に来てくれる人だと信じていたようだったのである。しかし、お互いが就職した場所が離れすぎていて、遠距離恋愛になり、そうこうするうちに少しづつだが、心が離れ、遠ざかっていった。
そのことについては、その後、母も話題にすることがなくなっていた。