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" Which way shall I go ? Where is this going for? " ( どこに行こうかなあ?この道何処に行くの? )
" Only one way, you know.” "This road goes round the island and comes here again.
" Here is the final destination. " ( 道は一つしかないよ。この道は島を一巡りしてまたここに帰ってくる。つまりここが終点ということだよ )
ということだったので、とりあえず右回りで行くことに決めた。
車を走らせながら景色を楽しんだ。
こんなのんびりした気持ちになれたのはずいぶん久しぶりという気がした。
街並みの人家が途切れて、しばらく木立の中を進むと、突然海が見えてきた。
紺碧の海と白い砂浜のビーチが見えて来た。海辺の木立の合間に点々と瀟洒な家が点在していた。おとぎの国のような風景で、これらの家にはだれが住んでいるのだろう。
このようなところに来るなど全く予想していなかった。
そういえばこのあたりは、別荘地として知られていて、かつての大統領も近くに別荘を持っていて、世界中からやってくるVIPを招待しているということを新聞で読んだことがあった。
ニューヨークやボストンの金持ちたちがここでひと夏を過ごして、秋になるとまたもとの都会に帰っていくようだ。
したがってピークシーズンになると島の人口が何倍にも増えて、途端に華やいでくるということも肯けた。
メインの秋は、紅葉が満開できれい。
マスイさんが、よくメインの秋の話をしてくれた。
「どこまで行っても紅葉の道が続き、あの息をのむような景色は、日本のどこにもないよ!」と言っていた。
マスイさんが、ハーバードにいたころ同じくハーバードの医学部で勉強していた奥さんと知り合った。
デートでニューイングランドをドライブしていたようで、その時のことを懐かしそうに話してくれた。
マスイさんにとっては、この風景がただ単に美しいというだけでなく、あちこちが思い出の場所でもあるのだろう、自分たちのエピソードと重ねて当時のことが好ましく思い出されるようだった。
「トシ!休暇をとって一緒にニューイングランドを旅行しようか?」など冗談かと思えることも言ったことがある。
「僕もペンシルバニアにいたから、大体どんなところか想像できるよ」
ペンシルバニア州立大学は、アパラチアン山脈の麓にあって、ニューイングランドの最南端といえるところに位置していた。
秋になると全山が紅葉して、絵ハガキを見るような景色であった。おそらくニューイングランドのそれも同じだろう。
親しくしてくれていたバイテル教授の家にはよく行った。
彼の家は、大学から離れて、アパラチアンの樹海の中にあった。舗装をしてない曲がりくねった道を30分も走ると彼の家があった。
彼の家に行くためには、自家用車だけが頼りだった。いつも誰かが車に乗せてくれた。
このあたりは30軒ほどの集落になっていていた。お互い家と家の間が百メートルぐらい離れていて、いかにも静かな環境で、都会の生活でなくひっそりと田舎暮らしを楽しんでいる人たちが住んでいるようだった。
手作りの庭でなく、自然がそのまま庭になっていて、それがいかにも似合っている感じだったのである。
大学の先生の家が多いようだったが、アーティストなども住んでいた。近くに引退した老夫婦の家があって、寂しいのか週末など遊びに来ていた。