家を出ようとすると、ノンノちゃんが、
" Where are you going ? " ( どこにいくの? )
" I'm just gonna go to do shopping. " ( ちょっと買い物に行こうかと思って )
" I wanna go, too. " ( 私も行く )とか言って結局ノンノちゃんの愛車のプリウスで出かけることになった。
目的地スーパーに着いて、ノンノちゃんは何か買い物をするでもなく、手持無沙汰のようで、さまよう姿が遠くから時々見えていた。
鮮魚コーナーで立ち止まっているとき、その日は献立はシュチューに決めた。大きなホタテ貝を買った。野菜コーナーで芽キャベツも買った。
家のキッチンでジャガイモを切ったりホタテを洗ったりするのをノンノちゃんは何ができるのかなという感じで眺めていた。
小麦粉をバターで溶かし、フライパンで焦がして、牛乳を少しずつ加え、スープの素を入れたりして何となく濃厚なスープが出来上がった。
芽キャベツ、玉ねぎ、にんじんなどをマイクロオーブンでチンして、ホタテと一緒にスープの中に入れ煮込んだ。何かいい匂いだ。
食卓にローソク、ナフキンなどを整えると晩餐の始まりである。
ノンノチャンは、料理はできなくても、高級レストランによく行くから不味いか美味しいかの味にはうるさい。
スープをすすってホタテを口にして、しばらく黙っていたが、
" Wonderful! Such a superb dinner as I've never had. " ( 美味しい! こんなの食べたことないわ )とかお世辞を言った。
ノンノちゃんが東京に来たときなど、本当はひとりで場末のラーメン屋に入り、他のお客さんに混じりラーメンを注文して食べてみたいなどと言っていた。さすがにそれは勇気がいることで実現していないようだ。何しろ彼女は白人で、しかも日本語ができない。周りの注目を集めるようで、いかにも目立つから、一人でラーメン屋に入るのはできないようだった。
それでも東京駅の地下街にあるラーメン屋で外国人らしい人が並んでいたので思い切って行列の後ろに立った。長い列に並んで、狭いカウンター席で揉まれるように座って食べたラーメンは印象深い思い出だったようだ。
一度福岡空港で買った博多長浜ラーメンを持って行ったことがある。生ラーメンで、なんとなく日本で味わうように仕上がった。彼女は「おいしい、おいしい」と言って食べていた。
彼女は、たまたま入った松坂屋の、所謂「デパ地下」が気に入ってしまって、以後デパートを探しては、先ずデパ地下い行くことにしている。
「試食をどうぞ!」と目の前に出された「サンプル」を見た時はビックリしたようだが、思わず手を出して食べてみた。
試食だけで済ませばいいのに、その都度買ってしまって荷物を増やしてしまった。 三越や大丸でも試食行脚をして、そのことが彼女にとって日本に行きたい理由の一つになってしまった。
そういえばハワイでサラをアラモアナのシロキヤに連れて行ったとき、ちょうど北海道フェアが開催されていた。
江差追分が流れる中でねじり鉢巻きのオジサンが大きな声で呼び込みをしていたのは日本の光景だった。それを見てサラはビックリしてしまってしばらく動かないで立ち止まっていたのを思い出す。
「そこの可愛いお嬢さん!ちょっと食べてみて!」と言われて楊枝に刺したサンプルを差し出されてサラは固まっていた。助けを求めるようにトシの方を見て、どうしたらいいの!みたいな様子だったので、
" Try it ! " ( 食べてみたら )
" This looks good, but what's this made from? " ( 美味しそうだけど、これ何からできているの? )
" Sea food, perhaps ! " ( 海産物だと思うよ )
ノンノちゃんの様子を見ていたら、昔のサラのことを思い出した。