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まず、バケットに入ったパンが、テーブルに置かれた。
パンをちぎって食べながら、シャンパンを飲んだが、パンのおいしさは格別で、いくらでも食べたくなったが、後の食事にさし障ると思い控えてしまった。
次に、スープが出てきた。
「シイタケマッシュルームのスープ」ということだった。
白いクリーム状のスープだったが、シイタケの匂いがして、上品な味だった。ちょっと青い粉末が散らばっていて、京都で、いつか食べた精進料理の香りだった。
思わず日本のお寺を頭に描いてしまうほど、日本的な味だった。 後で訊いてみると、「ジャパニーズパセリ」が入っているということだったが、一体、ジャパニーズパセリとは、何のことか、わからないままだった。紫蘇かなあ、という感じでもあるし、山椒かなあ、という気もした。
アぺタイザーは、生ハムとほうれん草のキーシュ、これもおいしかった。
アントレーは、「オナガとホタテのバター焼」のようだった。
オナガというのは、ハワイ近海で取れるタイのことで、両面を、こんがりソテーしたもので、バターの程よい風味と、タレは、日本の蒲焼き風の味だった。
さらには、大振りのホタテのバター焼きが添えられていて、上品な盛り付けである。ホタテは、ずいぶん大きく、ふんわりとソテーされていて、口触りは、心地よい感じだった。
サラダは、ハワイの新鮮な野菜に、チーズや果物のシードが添えられたもので、ドレッシングは、何かわからないまま、これも美味しかった。
デザートは、いろいろなハワイ産の果物とシャーベットのアイスクリームだったが、これも絶品だった。
気がつかないうちに、時間も経過していて、話も弾み、楽しいひとときだったのである。
あまり、このような高級な食事をしてなかったので、久しぶりに堪能した気持ちになってしまった。
食事の途中、シェフが挨拶に出てきた。
料理について尋ねられると、一つ一つ丁寧に答えていた。
トシには、片言の日本語を交えながら、話しかけてきた。
「どこで、日本語を覚えたのですか?」と聞くと、ハワイのホテルにいた時、日本人のお客さんに、厨房から出て行って、挨拶をしたり、料理の内容を説明していたということで、なんとなしに、日本語を覚えてしまった、というようなことを言っていた。
気になっていたことを尋ねてみた。
「パシフィックリムクイジンというのは、どんな料理なんですか?」に対して、
「アジアの国々の伝統的な料理、料理法、香辛料、スパイスなどを使って、フレンチ風な料理を作ることです」
「さらには、この料理法を、ハワイのオリジナリティとして、作りあげる、というのが、私たちの目指すところです」というような答えが、返ってきたのである。
今まで、漠然としか理解していなかったが、なんとなく、わかってきた感じだった。
帰りに、会計をを済ませようとしたら、結局、請求額の、ほぼ半額を返してくれた。
我々を将来の顧客として確保したいのだろうと思ったが、トシに関しては、残念ながら、その後、一度も訪れる機会がないのである。
場所的には、ブライスデールに近いところにある。
いい音楽を聴いた後、仲間と連れ立って、ここに来て、ワインでも飲みながら、音楽の興奮を語り合う、正に「アフター・ショー・ディナー」に相応しいところである。