その後も、ブライアンとは、たびたび一緒にランチに出かけた。
急ぎ足で彼の官舎まで帰って、二人で台所に入り、手早く何かを作ることもあった。
冷蔵庫を開けて、どんな材料があるのか確認しながら二人で手分けして料理をした。
大袈裟に料理をする時間などないので、大抵は、食パンにバターを塗り、トマト、アボガド、レタス、ハムなどを挟んだサンドイッチだった。飲み物は彼が好きな「スプライト」とコーヒーだった。
「なぜ昼休みに家まで帰るの?」と訊いたことがある。
「別に理由などないが、気分転換か、一つは歩きたいというのもあるような気がする。それにミスターヤマダと話ができるのも楽しいよ!」ということだった。
時々「ピザハット」にも行った。
ちょっとしたレストランの雰囲気で、午後の予定がなく、幾分時間に余裕があったりして、くつろぎたい気分の時などには、お喋りもできるし、絶好の場所だったのである。
フライパンに載って出て来るパンピザは、ひとり分のピザとしては丁度良い大きさで、ジュージュー音を立てて出てくる熱々のピザもお気に入りだった。
場合によっては、仕事のない時など二人でビールを飲むこともあったし、くつろいでお話しできる場所だったのである。
朝方、奥さんから電話があり、「お昼に私のところにいらっしゃらない?」とか誘われることもあった。
予め3人分の弁当を用意している時はいいが、彼女一人分しか持ってきていない時もあって、それでも、小さく3つの小皿に分けて食べたりしていたのである。
研究室の雑然とした中での食事も、キャフェテリアやレストランとは違った雰囲気があって、心やすい仲間との楽しい時間だった。奥さんもうれしそうだった。
「今日も小鳥たちがやって来るかなあ?」と期待しながらブライアン家に行くのも楽しみだった。
窓を開けてやると、2羽の小鳥たち、「チロちゃん」「ミナちゃん」が、どこからともなく飛んできた。これは、いつも変らなかったのである。
相変わらずブライアンは、さり気なく小皿に餌を入れて彼らのところに運んだ。
2羽の小鳥は、それぞれ特徴があって、見分けるのは簡単だった。「チロちゃん」は、全身黄色で、くちばしのところが黒くなっていた。「ミナちゃん」は、赤色にところどころ黒い斑点が混ざっていて、こちらは、黄色のより体が大きかったのである。2羽が、いつも一緒なのはなぜだか、そしてどこからやってくるのかわからない。
トシがブライアンの家に通うようになって3ヶ月くらいたった頃、小鳥たちは、急に来なくなった。
ブライアンは、「その内、またやって来るだろう!」と言っていた。以前もしばらく来なくなったことがあるそうだ。しかし、一週間もすると、また戻ってきたようだ。
このたびはそうはならなかったのである。
その後もう二度と彼らに会うことはなかった。
天敵に襲われたのか、何か事故があったのか、もっとかわいがってくれる家を見つけたのか、どうなったのかわからない。 声をかけると、反応して肩の上でピョンピョン遊んだりして、あんなに懐いていたのにと残念な気持ちだった。
その後、間もなくして、ブライアン家は、エマーソン通りに引越した。
官舎は、キャンパスにあって、便利だし、こじんまりしていて、ワイキキの街から遥かなパシフィックオーシャンが臨めて景色も申し分なかったが、なにしろ少し手狭だったようだ。
トシの方も、ティムとサラ夫妻が見つけてくれたアパートは、取り敢えず見つけて住むことにしたところで、机もなく、ベッドを置くだけでいっぱいいっぱいだった。辛うじてガス台、狭いキッチンシンクなどはあったが、勉強をする時などベッドの上にうずくまるように座り、目の前に書物やノートを広げていたのである。
もっといいアパートをということで、ティムとサラは、新聞のClassified Ads (分類広告)の House (家) や Apartment Furnished (家具附きアパート)などを探してくれていた。
トシも、休日には、不動産屋を回り、これと思う物件の「ウエイティングリスト」に名前を書いていたのである。