(4)
サイミン ( saimin )も、ハワイで人気のあるローカルフッドである。 ハワイの人たちにすっかり馴染んでいるが、どうも、これもハワイ伝統の料理でなく、アジアの、どこかの国から持ち込まれたものらしい。
そんな事とは、知らず、彼らは、いかにも昔から存在した自分たちの食べ物であるかのように思っているようだ。
語源は、中国語の「細麺」らしいのだが、必ずしも中国からやって来たものでないらしい。
沖縄の人たちが持ってきたものと言う人もいるし、もともとは、フィリッピンの「バンキット」という食べ物だ、と言う人もいる。
日本のラーメンが、その起源だという人もいるのである。
どの説が、本当なのかわからない。
さまざまなアジアの人たちが移住して来たハワイである。
人が移住してくると、同時に持ち込んで来たものもさまざまである。
「メルティングポット」とは、よく言ったもので、彼らが持ち込んだ文化、伝統、生活様式、食べ物などが、ここでは、融合しあい、新しい形になって生まれ変わった。
サイミンも、恐らくそのひとつなのだろう。
真偽のほどは、本当にわからない。誰も知らないだろう。
ともあれ、ハワイで、時間が経つうちに醸成されて、ハワイ独特の物に形を変えてしまったのだろう。
ハワイで、初めてサイミンを食べたのは、友達とワイマルショッピングセンターの「シロズ」というレストランだった。
こじんまりした、なんということもない食堂の感じだった。
サイミンを、初めて見たとき、ラーメンみたいでもあるし、うどんのようでもあったが、はっきり言って、食欲をそそるものではなかった。
フランスレストランなどに行くと、一見して、おいしそう、などと思うものだが、まったく、おいしそうには見えなかったのである。
もともとは、福岡のこってりした豚骨ラーメンに馴染んだものとしては、サイミンは、いかにも薄味に見えただけに、味があるのかなあというような感じだった。
段々味を覚えてくると、不思議なもので、サイミンの味は、こんなものなんだろう、ハワイの人たちは、この味に魅かれてやってくるのだろう、とか思うようになって、結構味を楽しむようになってきたのである。
初めは、ちょっと醤油を足してみたりして、味を変えてみたりしていた。、
確かに、醤油マスタードを加えると、なんとなく、自分好みになる気がしたが、勝手にいろいろしないで、そのレストラン、オリジナルが一番美味しいと思うようになったのは、ずいぶん後になってからである。
ハワイには、やはり、この風味が、土地の風土に合うのかもしれない。
日本の、特に、博多のこってりした味でなく、この地に合うのは、やはり、この薄味が一番だ、思えるようになってきた。
サイミンのバリエーションも、様々で、レストランによって、スープが異なり、トッピングも異なる。
出汁は、豚骨や鶏がらで無く、昆布とか、かつおだしとか、エビなどの海産物のようだ。
海の幸がベースになっているので、どうしても、生臭い、癖のある臭いがする。
トッピングは、大体どのレストランも、日本ではなじみの、渦巻きナルトが載っている。
それに、ハムかチャーシュウ、卵焼き、野菜は、中国の青梗菜、白菜、キャベツなどが入っている。
更に、メンマ、タケの子のような物が入っているところもある。
サイミンも、慣れてくると結構おいしく感じてくるから不思議である。
日本から来た知り合いも、サイミンに嵌っていて、どこの店がおいしいとか、かなり詳しい。
住んでいたアパートから、3ブロックほど下って行ったところに、キング通りがあって、道の両側に、たくさんローカルレストランが並んでいる。
ジッピーズ、ウイステリア、タコベル、マクドナルドなどの他に、タイ料理店、ベトナム料理店、韓国料理店など、小さなレストランがいっぱいである。
ほとんどのレストランで、サイミンがメニューにのっている。
マクドナルドでも、サイミンを食べている人を見てびっくりしたものである。
いろいろメニューがある中で、サイミンは、当然のように、地元の人には人気があるのである。
この近くに、日本の有名なラーメンチェーンの店があったが、流行らないのか、いつの間にか、消えて無くなってしまった。
豚骨味で、日本で食べるのと同じ味だったが、やはり、ハワイの人たちの口に合わなかったのかなあと思ってしまった。
数字の5の付く日には、サービスで、小皿に載った赤飯が出てきた。
それを目当てによく通っていたの残念であった。
このラーメン店は、ワイキキにもあったし、ハワイ大学の近くにもあった。
3店舗、すべてが、一つづつ消えていったのは、本当に残念であった。