カイルアの街は小さくてこじんまりしていて魅力的な街である。
コーヒーショップの外のテラスでおいしいコーヒーを楽しみながら、ひと時を過ごすのは至福の時間である。
トシもこの町に惹きつけられてよく通った。
カイルアは、周辺の地域を合わせる、人口は38,000人ぐらいということである。
ワイキキから行く場合、一度アラモアナまでバスで行き、57番バスに乗り換えて、途中の山脈を越えると眼下に色鮮やかなブルーの海が見えてくる。オアフ島の反対側である。
元々人が集まる観光地ではなく、どちらかと言うと「ローカル」の雰囲気があり、街を歩いていても、煌びやかなものはなく、人々はのんびりして見える。ワイキキにないハワイらしいといった雰囲気を感じることができる。
フレンチ、イラリアン、スシレストラン、ちょっと他所いきな感じのコーヒーショップなどもあり、田舎の町でありながら瀟洒で贅沢な街でもある。
高級百貨店の「メイシー」もあり、ショッピングも楽しめる。
アメリカ本からの移住者が多く、贅沢を楽しむこれらの人たちのニーズに応えるためにも、ファンシイな佇まいが備わっている。
近くにコナビーチとラニカイビーチがあり、人で溢れるワイキキとは違っていかにものんびりして静かな海岸である。
街の観光案内所に行くと、日本語の地図を置いているのは、最近若い日本の女性たちが訪れるようになってきたからである。
おそらく何度もハワイにやって来る、いわゆるリピーターと言われる人たちで、彼らはワイキキのホテルに泊まり、観光地を巡ったり、高級レストランで食事をしたり、ブランド品を買い漁ることに飽きた人たちで、通り一遍の観光でなく、よりハワイらしいというか、ワイキキとは異なったハワイを楽しみたいという人たちであろう。
コナビーチは、ワイキキの忙しない喧騒はなく静かでのんびりしている。
日本人の女性たちや家族の人たちがビーチで寛いでいる風景は、この辺りですっかり馴染みになって来た。
隣接してラニカイビーチがあるが、高級別荘地でアメリカの裕福な人たちが住んでいるのはカハラに似ている。
気をつけるべきは、海岸が、日本と違って個人の持ちものになっていて、やたらに入ることができないのである。
海岸に通じる道なども、Private Property (私有地)とか No Trespassing (進入禁止)とかになっていて入っていくと不法侵入になる。
オバマさんが大統領になってから、オバマさんの家族が二度にわたりクリスマスの休暇をここで過している。
したがって、カイルアが「冬のホワイトハウス」と謂われたくらいである。
ヒッカム空軍基地に大統領専用機が着陸して、そこから大統領専用車、護衛の車、工作車、救急車などが連なって、一気にカイルアに向けて疾走してくる。
大統領はここで二週間ほどの休暇を過ごし、もちろん、その間も執務を怠るわけにはいかないからホワイトハウスがここに移動した感じなのである。
この辺りでは、映画もよく撮影されていて、「ハワイ・ファイブ・オー」は何度も、その他、「ワイキキ」、「マグナムPI」,テレビシリーズの「ロスト」など思い出すだけでもたくさんある。
海がきれいで、周りの風光明美な背景を含めて、1998年には、「全米で一番素晴らしい海岸」に選ばれている。
慌てて泳ぐ必要はなく、海岸で何もしないでボーッと過ごすのもよく、遠くを見ていれば、運がよければクジラの遊泳を見ることができるのである。トシも何度かここでクジラを見たことがある。
クリスティのお母さんは毎日が忙しくて、家事をしたり、時々は仕事に出かけることもあるし、庭仕事などにも励んでいて、買い物は、近所のマーケットでしているようで、カネオヘやウインドワードまで足を延ばすことはあまりないようだ。
カイルアにもたまにしか来ないと言っていた。しかし今日に限ってカイルアに行こうといったのは何かお目当てでもあるのだろうか。
カイルアに着いて、まずメイシーに入っていった。
ただ問題があった。犬のユーリは入れないのだ。
入り口の前にでも繋いでおいたらどう?とか言っても、
" I'm afraid if Yuri might be kidnapped by force. " ( 誰かに連れていかれたらどうしよう!) と、マディは心配なのだ。
じゃあ、こうしよう!トシが先にデパートの中をひと廻りしてくるから、その間マディが、ユーリと一緒にここにいなさい!帰ってきたら、トシと交代しよう!と言ったら、マディも頷いた。
トシとしては、特に買い物はないし、クリスティとママと三人で、とりあえず一階と二階を一通り見てまわってった。
マディと交代しようとエントランスを出てみると、マディが中年の女性と話をしていた。