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北九州八幡駅前の、ちょっとファンシイな洋風レストランに、ランチスペシヤルとして、ハワイ料理の「ロコモコ」が出されるようになった。
ハワイで食べるのと違って、ちょっと上品によそおっていて高級料理に見える。
懐かしいグレビーソースの香りを味わいながら、フッと、ハワイを思い出したりしている。あの懐かしいハワイの温かな風が通り過ぎていく気分である。
最近では、日本でも、ロコモコ料理をメニューに加えるレストランが多くなった。
元はといえば、ハワイのクイジンであるのは知っていたが、てっきり、ハワイの伝統料理だろうと思っていた。
ハワイで、友だちと話していて、
「ロコモコはハワイの伝統料理だろう?」と言った時、彼が、
「ロコモコは、日本料理だよ!」と言った。
「エツ!ぼくは、日本人だけど、知らないよ」
物知りの彼によると、ロコモコの発祥地は、ハワイ島のヒロだそうだ。
第2次世界大戦が終わったころ、ヒロに、少年のフットボールのティームがあって、少年たちは、毎日遅くまで練習をしていた。
練習を終えた後、腹が減った彼らに、スポンサーが料理を振舞っていたそうである。
料理を作っていたのが、レストランを経営していた日系の女性で、お昼の残りの材料で、手っ取り早く、何らかの料理を拵えたのである。
大体が、皿にいろいろな食べ物を寄せ集めて載せた、日本でいう「丼」みたいなものだった。
どう見ても、上品な食べ物ではなかったが、子供たちの食欲を満たすのには役立ったのである。
しかも、この「ロコモコ」という料理名を、この少年たちが勝手につけたものらしいのだ。
「ロコ」(loco)、おそらく、ローカルのことで、地元の、という意味であろう。
「モコ」(moco)は、ハワイ語で、「ごちゃ混ぜ」という意味らしい。
現在のロコモコは、白いご飯の上に、ハンバーガーを乗せ、その上に、半熟の卵の目玉焼きをかぶせて、たっぷり、グレビーソースをかけたものである。
付け合わせに、マカロニサラダやマッシュドポテイトを加えたりしている。
ヒロの日系人女性が子どもたちに出していたロコモコは、昼間の料理で残った、肉、ソーセージ、ハンバーグなどを、ご飯に乗せ、その上に半熟の卵の目玉焼きをのせた、ごく簡単な料理であったようだ。
したがって、ハワイ古来の伝統料理だと思っていたのは間違いで、ここ60年ぐらの歴史しか経ていないのである。
こんなふうに、ロコモコ料理の起源を訊いてちょっとびっくりしてしまった。
今では、ハワイの郷土料理として誰でも知っている。
最近では、場末の食堂といったところばかりでなく、高級なホテルのレストランでも、この料理がメニューに載るようになった。
さすがに、このようなレストランでは、高級感あふれるような出来具合になっている。
きれいな皿の上に、フライドライス、ハンバーガー、卵の目玉焼き脇には、色鮮やかな温野菜などが、格好良くしつらえている。
ハワイの花など一輪、上に載っていて、いかにもフランス料理といった感じである。
初めて、ロコモコを食べたのは、ハワイ大学のマノアガーデンだった。ずいぶん昔のことである。
いくつかのランチメニューの中に、たまたま、ロコモコがあった。
大きな皿に、2スクープのライス、ハンバーガー、その上に卵の目玉焼き、グレビーソースがたっぷりかかっていた。
脇に、マッシュッドポテイトが添えられていたように思う。
意外に日本料理の感じで、おいしかった記憶がある。
今でも、マノアガーデンには、ロコモコのメニューはある。
ロコモコは、いわば、B級のグルメで、そんなにかしこばって食べるものではない。
ちょっと、田舎の方に出向いて、小さなレストランに立ち寄ると、ロコモコに出会う。
大雑把にプラスティックの容器に入って出てくる。
テイクアウトしてもいいし、そこで食べてもいい。
大概は、スティームドライスに、ハンバーガーが載っていて、その上に卵焼きが載ってでてくる。添え物として、マカロニサラダやマッシュッドポテイトなどが付いている。
みんな、ガツガツ食べていて、とても上品な食事とは言えないが、それでも、この料理を食べると、ハワイにいる雰囲気を実感してくるのである。
夕暮れ時、カパフル通りを散歩する。
ワイキキから、山手の方に向かう道である。
この道の両側には、必ずしも、きれいとは言えない、古びたレストランと言ったらいいか、食堂のようなものが並んでいる。
日が落ちたころから、人々が集まってくるのである。
それぞれが、どこかのレストランに入って行く。
日本料理店もある。中華、ハワイアン、イタリアン、メキシカンなど、さまざまなレストランが連なっている。
この一角に、「レインボウ・ドライブイン」というのがあって、この店によく立ち寄る。
「ロコモコ」を注文する場合が多い。
特に、おいしいというわけではないが、何か、素朴な、野性味あふれる、ローカルな雰囲気を感じてしまうのである。
食堂の前のテーブルで、ロコモコとペプシコーラで食事を楽しむのはいい気持である。
すっかり、ハワイに溶け込み、ハワイ人になってしまう。