「 モナのこと 」
( ウイスコンシン州の首都マディソンの町 )
モナがイタリアに行ってしまった。イタリア人男性と結婚したのである。レストランを二つ経営しているかなり裕福な人らしい。
モナに初めて会ったとき、長い手を差し伸べてトシの手を握り、
" Hello ! Mr.Yamada " ( ハロー!、ミスターヤマダ )
" How do you do ! " ( 初めまして!)
" How was your trip ? " ( 旅はどうでした? )
" Oh, I got tired after such a long trip, you know " " I started at Fukuoka,then from Narita to Minneapolis. Perhaps 12 or 13 hours on board, that's awful. And again 1 hour Minneapolis to Madison. "
( それが長い旅で、疲れてしまいました。福岡を出て成田に、今度は成田からミネアポリスまで、おそらく12,3時間乗っていたと思います。それからまた1時間かけてマディソンまで来ました。 )
モナと英語で話していたら、横にいた女性が笑いながら、
" Mr.Yamada, Mona understands Japanese. " ( ミスター・ヤマダ、モナは日本語がわかりますよ。)
" What ? " ( なんですって? )
後で知ったのだが、モナが英語でトシに話しかけたら、英語で応じたので、つい英語で話し続けたと言うことだった。
彼女はどう見ても、アメリカ人だが、そして流暢な英語を話すのだが、実は日本の神戸で生まれている。
お父さんがアメリカ人で、大学の教授として招請されて、神戸に滞在していた時、モナのお母さんと知り合い結婚した。
モナは、幼い時から高校まで神戸のインターナショナル・スクールに通った。
日本にいて、日本語でなく英語の世界にいたのである。彼女は、日本語を話すのだが、関西弁である。
お母さんが、すごくて、訛りのある英語で、それも早口で話しまくるのである。 はっきり言ってお喋りで、話好きで、だれかれなく捕まえては話している。
" I'm not a Japanese, but a Kansaijin. " ( 私は日本人でなく、関西人です。)とか言っている。
トシなんか、そんなお母さんを見て感心している。あれくらいバイタリティをもって英語を使ったら、上達も早いだろうなどと思ってしまうのである。
モナのお父さんが亡くなった時は、彼女は打ちひしがれたように落ち込んでいた。
イタリアに遊学中で、その知らせを聞いて一目散にマディソンに帰ってきた。
全く予期していなかったことで、ショックが大きかったのである。
取るもの取り敢えず帰国の途に就いたが、航空券をどのようにして買ったのか、荷造りをどのようにしたのかさえ思い出せないと言う。マディソンに帰ってきても元気を取り戻すのに長い日にちがかかったのである。
彼女は、お父さんっ子だった。
彼女がウイスコンシン大学に在学中には、二人でワインを酌み交わしていた。夕方父親が、仕事から帰ってきて、夕食ができる前のしばらくは、庭のテラスで、父と娘がチーズ、ジャーキー、新鮮な野菜をおつまみにワイングラスを傾けながら、その日にあったことなど話題にするのが楽しみだった。
そのせいか彼女はワインが好きで、パーティなどでいつもワイングラスを片手に人々と話し込んでいる風景をよく見る。