(6)
ハレイヴァ(ハレイワ)の街には、以前から、トシ自身は、魅かれるものを感じていた。
思い出したように、時々遊びに行っていた。
当時は、何の変哲も無い、訪れる人たちにとって、魅力があるように見えなかったし、田舎町、そのものであったのである。
古びた家々が並んで、大した店もなく、界隈に住む人たちが、日常の用事でやってくる小さな町のようだった。
ここに他所から来る人たちと言えば、ノースショアでサーフィングをする人たちで、おそらく食事をしたり、必要なものを買い揃えるには便利だったはずだ。
ここを通り過ぎる人たちも、せいぜい、この辺りのどこかで昼食を摂るとかの「カムフォートストップ」(comfort stop)には便利が良かったくらいだ。
しかし、最近は、町の模様もずいぶん変わってきた。
銀行があったり、立派な店やレストランが出来たり、不動産屋もある。
そこに住んでいる人のためにだけに存在した町が、観光客などが目立ち、活況を呈してきたのである。
通り過ぎる人たちにとっても、ランチを摂ったり、お土産を買ったり、何かを求めて立ち寄る、そんな街になってきたようなのだ。
「掻き氷」など、アメリカにはなかったし、本土から来たアメリカ人も、もし食べたにしても初めての味だったはずである。
現にトシの友だちも、初めて口にした時は、
「こんなモノ?」と言って、顔を歪めて、何か食べるべきでないものを口にしたような反応をしていたのである。
しかし、最近は、掻き氷を初めて売り出した「マツモト」は、すっかり有名になってしまった。
日本の雑誌などにも紹介されるらしく、いつ行っても、日本から来た若い女性が並んでいる。
アメリカから来た観光客なども、この掻き氷を求めて、列に並ぶようになった。
最近では、この街も、すっかり、魅力的になってきた。
やってくる人たちを惹きつける雰囲気を持つようになってきたようだ。
ここには、「ガーリックシュリンプ」の有名な店が2軒ある。
「ジョヴァンニ」(Giovanni's)と「マッキィーズ」(Macky’s)である。
ちゃんとした店構えかというと、そうでなく、空き地にワゴン車を止めて、その中で調理した、いく種類かの「ガーリックシュリンプ」をお客さんに出している。
近くに寄っていくと、溢れんばかりのニンニクのにおいである。
食べてみて、おいしいという以上に、はまりそうである。
口コミで噂が広がるのか、絶えず新しいお客さんがやってくるようである。
ある時、ハレイヴァを訪れた。
その帰り道、ダウンタウンに立ち寄り、買い物をするために、チャイナタウンに向かって歩いていたら、
「ハーイ、トシ!」と声がした。
そちらを見ると、微笑みながら立っている男性がいた。
瞬間、誰だったかなあ?などと戸惑っていたら、思い出した。
クラブで時々会って、話をしていた知り合いだったのである。
クラブ以外で会うこともなかったし、咄嗟には、彼が誰なのか判断できなかったのである。
彼のことを、みんなは、「ミック」とか「ミッキィー」とか呼んでいた。 弁護士とかで、話をしていて、どうも、商法が専門分野のように感じていた。
「最近はクラブで会わないね!」
「そうだね、クラブには、よく行っているの?」などと、取りとめない話から、
「今、ハレイヴァの帰りだよ」と言ってしまった。
「エビを食べに?」と言うから、
「食べに、というわけで無いんだが、お昼は、ジョヴァンニでプレートランチを食べたよ」
「どうだった?」
「いつものように、美味だったよ」
ミックも急いでいるふうだったので、その時は、すぐに別れた。
「また、連絡するよ!」 ( I'll get in touch with you later! ) と言ったので、あいさつの言葉かと思っていたら、その日の夕方になって、彼から電話がかかってきたのには驚いた。
家に帰って、トシがジョヴァンニに行った話をワイフにしたら、
「今度、家でガーリックシュリンプを作って見ようか?」というような話になったらしい。
奥さんは、友達の料理に詳しい人に、早速電話をして、作り方を尋ねたようなのである。
すると、話の序で、週末、シュリンプパーティをして、みんなで作ってみよう、ということに話がなってきたというのである。
何を思ったか、ミックは、トシに電話をしてきて、週末のシュリンプパーティにトシを招待したい、と言った。
「車で、迎えに行きたいが、週末は空いている?」
思いがけないことであったが、
「ありがとう。じゃあ、是非!」と言ってしまった。