マディと愛犬ユーリ、親友のクリスティ、それにハワイのこと

ハワイに住んでいたころ、マディという女の子が近所に住んでいて、犬のユーリを連れて遊びに来ていた。

ハンバーガー、ポテトフライ、コーク

2010-07-14 14:12:36 | 日記

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 レストランを出た時には、「水をもらえますか?」と言った男のことなど、すっかり、頭の中になかった。
 レストランから2,3ブロック離れたところのコーヒーショップに向かって歩いていた。
 ちょっと、面白そうな店などを覗きこみながら時間をかけて歩いた。
 アンティクショップを外から覗きこんでいて、惹きつけられるように中に入っていった。
 別に、買う目的などなく、陳列された品々を興味を持ちながら眺めるのが楽しかったのである。
 しかし、一枚の風景画が目に留った。
 おそらく、ニューヨークかシカゴの街並みを描いた物だろう、作者は、わからないが、何となく、魅かれる水彩画だった。
 ためしに、店員に値段を確かめると、150ドルだとのことであった。

 表に出て、再び、歩き始めた。
 その時、前方にうずくまるような姿勢で、地面に座りこんだ男性がいた。見覚えがあった。先ほど、レストランにやって来た男である。
 何か、遠く、海の方を見やる顔は無表情だった。
 トシは、彼の前を通り過ぎる時、ちらっと見たが、彼は、顔を上げるでもなく、関心を示さなかった。

 彼の前をかなり過ぎて、フッと何を思うでもなく、歩くのをやめて、今来た道を後戻りし始めた。
 例の男の傍まで来て、何とはなしに、彼と同じように、地面に腰を降ろした。
 チラ!とこちらを見たが、それ以上の興味はないようだった。

 勇気を出し声を掛けてみた。
 「ハーイ!」
 彼も、仕方ないふうに、
 「ハーイ!」と声を返した。
 どんな話をするか、など心構えができていなかったので、それに続く会話が出てこなかった。2秒、3秒の無言の空間が、ずいぶん長く感じられた。
 思い切って、
 「もう、ハワイは長いの?」と、意味のないことを訊いていた。しばらくして、彼は、一言、
 「そうかなあ!」 ( Maybe!) と言った。

 急に思いついたふうに、
 「あそこで、コーヒーかジュースを飲まない?」と言ってしまった。
 「アンタのおごり?」と言うから、
 「当然だよ!」というと、急に顔を崩して、にっこりした。
 最初の印象では、40歳にもなるかなあ、と感じたのだが、近くで見てみると、30台、ひょっとして、20代後半かもしれないという気がしてきた。
 ザンバラ髪と髭のせいで、実際より老けて見えたのだろう。
 
 「さあ!行こうか!」
 本当は、小奇麗なコーヒーショップに行くつもりだったが、入店を拒否されては拙いと、近くのファーストフッド店に行った。
 彼を表のテラスの椅子に座らせ、トシは、店の中に入っていった。
 彼のために、 ハンバーガー、ポテトフライ、コークのセットと、自分用にコーヒーを注文した。
 それを持って、彼のところに戻り、セットの器を彼の前に置いた。
 「コレ、食べていいの?」と言うから、
 「もちろん」
 汚れた手で、目の前のハンバーガーをプラスティックのナイフで切り始めた。
 どうするつもりなのか、わからなかったが、半分を自分で手に持ち、残った半分をプレートにのせたまま、こちらに差出し、
 「どうぞ!」と言った。
 一人分しか買わなかったので、半分づつにしたのだろう。
 「ボクは、さっき済ませたから、いいよ!」