(4)
シュミットさんとは、数ヵ月後に、今度は、ハワイで会った。
思いがけないというのか、予想してなかったので感慨深い再会だった。
福岡空港で、あのような慌ただしい別れ方をして、再び、会えるとは、思っていなかったのである。
手渡された名刺一枚が、このような場面を導いたのだろうか。
年齢も違う、生活している環境も違う、本来なら出会うことすらなかっただろう。
何か不思議な出会いだったのである。 トシ、自身も、また会えてよかった、という気持ちだったし、シュミットさんは、ことの他喜んでいた。
ハワイに着く前にすでに、滞在先のコンドミニアムのこと、滞在日数などを知らせていたので、直ぐに電話が掛かってきた。
電話の向うは、忘れかけていたが、まさしく、あの聞き覚えのあるシュミットさんの声であった。
いろいろとスケジュールを抱えていたので、予定表を見ながら、空いた日にち、時間を探して、会う場所を決めた。
「ぜひ、滞在先までお迎えにまいります!」ということだったので、お願いします、と言ってしまった。
当日、決められた時間に、コンドミニアムの前で待っていたのだが、約束の時間が来ても、やって来なかった。
「おかしいな!ひょっとして、日にちを間違えたのかなあ!」とか、思いながら、それでも、石垣に腰を降ろしたまま、30分も経過しただろうか。
気になりだしたので、近くを探していたら、遠くに、きょろきょろしているシュミットさんらしい人が見えたのである。
走り寄って見ると、果たして、シュミットさんであった。
「ああ!会えて良かったです!迷子になったのかと思った!」と彼女は言った。
どうやら、打ち合わせていた場所を間違っていたようなのだ。 「車を角を曲がったところに留めていますので!」と言うので、その方向まで歩いて行った。
「ワイキキには、近年来たことがないので、ちょっと、不案内で、方向もよくわからないのです!」ということである。
その日は、一日、このために空けていたので、どのように過してもかまわなかった。
車は、かなりの高級車で、乗り心地は上々だった。
「どちらに行きたいですか?」と言うから、
「そうですね!マカハの方は、あまり縁がなくて、見て回った事がありません!」と言うと、
「じゃあ、そちらに参りましょう!」ということになった。
景色のいい海岸線を走った。
トシには目新しい景色が広がっていた。
おそらく、シュミットさんには馴染みの風景なのか、いろいろ説明をしてくれた。
途中、コーヒーショップに寄ったり、海辺のレストランで食事も楽しんだ。
シュミットさんは、10年ほど前にご主人を亡くして、以後は、独り住まいであるとのことである。
子供さんも、巣立って行って、アメリカ本土で世帯を持っているようだ。
今住んでいる海岸べりの家は、ご主人と最後に過ごしたところで、そこを離れることが出来ないと言っていた。
いい思い出があるのだろう!
コーヒーショップでコーヒーを飲みながら、また、レストランで食事をしながら、ハワイの気候のこと、風景の話とかの合間に、自ずと、彼女の身の上話に話が及んでいった。
彼女の私的な姿が浮かび出て来る感じであった。
特に、トシの方からは、プライベートなことを聞いたわけではないが、時に彼女が過して来た長いアメリカでの生活が漏れ聞こえてくる感じで、興味深く聞いた。