(6)
グローガンさんは、電報局の電信技士である。
彼は、電信で送られてくる信号を、文章に直してタイプライターに書き取るのが仕事である。
次に、ホーマーが、封筒に入れ、自転車で、あて先に配達する。 グローガンさんは、かなり年をとっていて、肉体的に、頑健というわけではない。それに、時々、心臓の発作を起こす。
そんな時、ホーマーが、水を汲んで来て、顔を冷やしてやったり、気つけのために、近所にコーヒーを買いに走ったりして、面倒を見ていた。
その日は、日曜日で、ホーマーは、電報局で働く日ではなかったが、丁度、街を歩いていて、自分の職場の前を通りかかり、つい、立ち寄ってしまった。
その時、思いがけないことが起こった。
グローガンさんさんが、タイプライターに覆いかぶさるようにうつむいていたのである。
ホーマーは、はじめは、彼が、うたた寝をしているのかと思った。 「グローガンさん!」と何度も、声をかけたり、体をゆすったりもした。
しかし、起きようとはしなかった。
異常事態を察知した、ホーマーは、途方にくれた。
ちょうど、その時、日曜日の配達当番のフェリックスがやってくる。二人で、局長のスプランガーさんの家に電話をした。
ホーマーが、グローガンさんの体を助け起して時、タイプライターの下に、書きかけの電報文が見えた。
Mrs. Kate Macauley
2226 Santa Clara Avenue
Ithaca, California
The Department of War regrets to inform you that your son.......
「ケイト・マッコウレー夫人へ
陸軍省は、あなたのご子息が戦死されたことを心からの哀悼の意を持ってお伝えします…」
と書かれていたのである。
兄からもらった手紙から、このようなことがあるかもしれないとは恐れていたが、まさか、という気持ちで、信ずる気持にはなれなかったし、気が転倒するばかりであった。
事もあろうに、この電報を、弟であるホーマーが届けなければならないなんて、なんという運命なのか!
皮肉であり、残酷な仕打ちであった。
母にどのように伝えよう、姉、弟にどのように伝えよう、と彼は、途方に暮れるばかりであった。
マーカスが、ホーマーによこした手紙には、このことを予感させるようなことが書かれていた。
'With me, we'll be boys from all over America from thousands of towns like Ithaca. I may be killed, of course. We all know that I don't like the idea at all. More than anything else in the world I want to come back to Ithaca. '
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'I have told my friend Tobey George about Ithaca and our family.
Some day I hope to bring him to Ithaca.'
「僕と同じように、アメリカ中のイサカのような町からたくさんの少年たちがやってきている。
僕は、もちろん、死ぬかもしれない。そんなふうに考えることなどしたくないのは、わかっている。何があっても、僕は、イサカに帰りたい!
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友達のトービー・ジョージにイサカのこと家族のことなど語って聞かせている。いつか、彼をイサカに連れて帰りたいと思っている!」
しかし、このことは、実現しなかった。
マーカスは、もう、帰っては来れないのだ。
トービーが、彼の分身であるかのように、「ふるさと」に帰ってくる。
イサカのサンタフェの停車場の降り立った彼は、負傷した左足を引きずりながら、一歩一歩、マッコウレー家に歩を進めて行ったのである。