私は50年以上、認知症を専門としてきました。認知症がどのようなものか、大体のことは分かっているつもりでした。
その私が認知症になって痛切に感じたのは、「確かさ」がはっきりしなくなったことです。
医師として、私は認知症は次のような段階を進んで「確かさ」が失われていく、と説明してきました。まず、今がいつなのかが明らかでなくなる。次に、今どこにいるかがはっきりしなくなる。最後に、目の前にいる人が誰なのか、分からなくなってしまう。
私の場合は、自分が話したことを忘れてしまうことから始まりました。話したと思うんだけれども、どうもそうでないような気もする。さらに、昨日の日付は分かっていたのに、翌日になると、今日が何日か分からなくなる。自宅を出るとき鍵を閉めても、鍵を閉めたことがはっきりしないから、来た道を戻って確認しなければ気が済まない。ひどいときは、一度確認したことを何度も確かめたくなる……。
こうしたことから、自分が認知症ではないかと疑いはじめました。
ありのままを受け入れる
私は当初、自分をアルツハイマー型認知症ではないかと考えました。アルツハイマー型認知症は、脳の神経細胞に「老人斑」というシミのようなものが広がることなどで起こる、認知症の中でも最も多いものです。
そこで、認知症専門病院である和光病院(埼玉県和光市)で、さまざまな検査をしてもらいました