イスラム教の戒律にのっとって製造されたチョコレートやキャンディーといった菓子類の需要が伸びる中、マレーシアは国内でカカオをほとんど生産していないにもかかわらず、アジア第2位のカカオ製造加工国に躍進した。アフリカを除けば最大のカカオ生産国である隣国インドネシアからカカオ豆を輸入し加工することで、マレーシアはカカオ製造加工大国となった。(ブルームバーグ Anuradha Raghu)
国民の大半がイスラム教徒である同国では、流通しているカカオ製品のほとんどが、イスラム教の教えにのっとってアルコールや動物由来の原料を使わずに生産された「ハラール」食品だ。
イスラム教は世界で最も急速に成長している宗教であり、米調査会社ピュー・リサーチ・センターによれば、イスラム教徒数は2050年までに28億人に達する可能性があるという。
英調査会社ユーロモニター・インターナショナルは、ハラール認証チョコレートの売り上げは毎年5%拡大し、20年には全世界で17億ドル(約1925億円)に達すると予測する。
これは、チョコレート市場全体の成長予測である4%を上回る数字だ。マレーシアは、昨年過去最高を記録した輸出が市場の拡大とともにさらに増加するとみている。
ユーロモニターのアナリスト、エミル・ファジラ氏(シンガポール在勤)は「ハラール認証はインドネシアやマレーシアなどイスラム圏の新興市場では不可欠なものとみなされている。イスラム教徒が購買力を増しつつある市場では、ハラール製品への需要が非認証製品を上回るようになるだろう」と述べた。
コーランの教えに基づけば、ハラール認証の対象は食品原料だけではない。加工用の機器にも、アルコールの入った洗浄剤や豚から抽出された乳化剤やゼラチンなど動物由来の潤滑油は使用できない。
「ミスター・ココ」や「マリー・ココ」のブランド名でチョコレートを販売するダズル・フードは09年からハラールに完全対応し、国内販売だけでなくシンガポールやインドネシア、中国、中東への輸出も行っている。同社によれば、ハラール認証のおかげで売り上げは過去3年で20~30%増えており、今年はさらに需要が伸びそうだという。
マレーシア・ココア委員会(MCB)によれば、中央アジアや中東のイスラム圏諸国は経済成長に伴い有力な輸出先として期待が高まっているという。こうした国々の多くでは、ハラール製品はニッチ市場向けではなく主力製品だ。
MCBのノルハイニ・ウディン事務総長は「中央アジアでは製菓業界が成長している。イスラム教徒らは以前よりも用心深くなっており、ハラール認証のロゴなしに市場を獲得することはできない」と述べた。
マレーシアはチョコレートだけを売っているわけではない。ウディン氏によれば、輸出の大半を占めるのはハラールに準拠した機器で製造したカカオ製品やフィリング(詰め物)、コーティング材だ。カカオ豆・製品の輸出は昨年、過去最高の57億4000万リンギット(約1513億円)を記録した。
ハラールは「許された」という意味を持つ。イスラム教徒が少数派の国では、ハラール認証のロゴが同製品に対するボイコットの呼びかけにつながっている。
スイス食品大手ネスレは16年3月、オーストラリアで販売するチョコレートのハラール認証を中止した。ハラールに準拠した生産を行っていても、認証ロゴを付けないメーカーもある。「キャドバリー」などのブランドを持つモンデリーズ・インターナショナルは「需要のある場所」ではハラール認証のチョコレートや菓子類を生産していると述べた。
だが、キットカットを含む全てのネスレ製品がハラール認証付きで売られているマレーシアでは、そうした心配は無用だ。
MCBのデータによると、マレーシアではチョコレートや菓子類の売上が年間10億9500万リンギットに上る。マレーシアはココア・パウダーとバターの市場では既に、東南アジアで50%以上、その他アジア、ニュージーランド、オーストラリアで30%のシェアを獲得している。
中東での同製品輸入市場におけるシェアは20%、東欧におけるチョコレート原料市場でのシェアは15~17%で、同地域ではロシアやウクライナ、カザフスタンが優勢だ。「20年までに東欧全体でシェアを20%にまで増やせるはずだ」とウディン氏は話す。ユーロモニターはカカオ原材料市場について、15~20年の年平均成長率が世界全体で1.7%であるのに対し、アジア太平洋地域は4.5%と引き続き力強い成長を見せると予測する。