*この報告書もフシギな記事で一番重要な価格、コストレベルの記述がイッサイゼロである、国際協力銀行はイッタイ何のタメに交渉に参加したのか、これもオカシナハナシである、最初から呑まれっぱなし、最初から受注するつもり?交渉時点の重工のヨワイポジション?
三菱重工の再挑戦
三菱重工は、2002年10月に、当時、長崎造船所で艤装工事中だった世界最大級の豪華客船ダイアモンドプリンセス号が、工事中の火災により体の約4割が焼失するという悲劇に見舞われている。このときには、幸い機関室が無事であったことから、焼損部分をすべて撤去して修理を行い、ダイアモンドプリンセス号としての納期が迫っていたことから、同時に建造中だったサファイアプリンセス号をダイアモンドプリンセス号として完成させ、火災に遭った船を、サファイアプリンセス号として完成させた(このときの船主P&O Princessは、今回三菱重工が受注したカーニバル・コーポレ
ーションに2003年に買収されている)。 三菱重工は、その後、事業性の再検証や建造スキームの見直しを行い、本格的に客船事業の営業を再開したのは2007年のことであった。しかし、リーマン・ショック、円高等、三菱重工にとって客船事業を取り巻く環境は厳しく、なかなか受注には至らなかった。 一方、三菱重工は、2010年度からの中期経営計画では、船舶事業の大転換プランを打ち立てた。一般商船の比率を下げることを決定し、代わりに、客船、ガス船(LNG船、LPG船)、LNG-FPSO等の海洋案件を船舶事業の中核に据えることとした。客船事業については、省エネ・環境船型を開発し、建造・調達スキームの改善を通じて、恒常的な受注獲得を図り、年1隻の連続建造体制を目指すことを掲げた。
欧州のクルーズ市場は、ドイツを筆頭として、英国、イタリア、スペイン、フランス等、欧州全体で500万人の市場となっている。北米の1100万人に比べ数は劣るものの、近年の欧州のクルーズ市場の成長は目覚ましく、その中心にあるのがドイツである。
これまで、客船の建造造船所は欧州が中心だった。イタリのFincantieri、ドイツのMeyer Werft、フィンランドとフランスに造船所をもつSTX Europeが代表的な造船所である。
ドイツのクルーズ市場のけん引車的存在のアイーダ・クルーズは、1985年に設立され、船体に斬新なペイントが特徴で、家族連れなど大衆マーケットを引き付けることに成功した。
1999年にP&O Princessに買収され、さらに、2003年にP&O Princessとともにカーニバルグループの傘下に入った後、新造船の継続発注により船隊を拡充してきたが、これらはすべてドイツ国内のMeyer Werftでの建造であり、現在も7万総トン型の客船を2隻建造中である。このような状況下、カーニバルグループは成長著しいドイツ市場に、将来の新標準船と位置づける12万トン型次世代省エネ客船2隻投入を決定し、造船所選定に当たっては従来からのMeyer Werftに加え上述の欧州造船所、そして三菱重工が応札した。
三菱重工は、2007年の客船事業の本格営業再開後、極東の造船所としては、唯一、欧米向け客船の建造実績をもつ造船所であるという実績をベースに、性能、価格競争力の両面で船主にアピールするべく準備作業を行ってきた。まず、豊富な省エネ・環境技術を活用して、推進エネルギーと船内消費電力を従来比2割削減する高品質・高性能の船型を開発した。また、船体等共通化できる部分をプラットフォーム化し、船主の志向に合わせて仕様を変更するモジュラーデザイン化も導入した。さらに、欧州製が一般的となっている内装品について、欧州造船所のコスト競争力に打ち勝つため、資材調達の極東化を行うこと、また、船内の居住区については、ゼネコンとの協業検討を進めるなどの施策を展開しつつあった。
カーニバル社は、アイーダ・クルーズ向け新造船の竣工時期を考えると、2011年7月までに交渉相手を決めなければならなかった。
実績、技術力では、三菱重工は、十分高い評価を得ていたが、ユーロ安の追い風を得ている欧州造船所に比べ、日本の造船所は、厳しい競争を迫られており、何度もコストの見直しが行われた。
また、金融面でのイコールフッティングを整えるために、国際協力銀行による先進国向けの輸出金融再開が法律および政令で制定され、欧州の造船所が活用してきた輸出信用機関によるサポートを日本の輸出者も活用できるようになった。
使い慣れたイタリア、ドイツの造船所との契約に比べ、細かい所で調整が必要な日本との契約交渉は、一筋縄にはいかず、三菱重工は、カーニバル社の十分な理解を得るためにカーニバル社の本社があるマイアミに何度となく通わなければならなかった。また、金融面で日本品の競争力を削ぐことはあってはならないとの方針のもと、国際協力銀行は、早い段階から交渉の場に同席するとともに、ニューヨーク駐在員事務所を通じてカーニバル社と密に連絡をとり合う体制を整えた。そして、
幾多の交渉を経て、三菱重工とカーニバル社がついに合意に至った。
三菱重工は、今回の世界最大のクルーズ船主からの客船受注を通じて客船ビジネスにおけるブランドを確立し、継続受注を目指すとともに、今後客船ビジネスに積極的に取り組む方針を打ち立てている。また、長期にわたる円高と、欧米の不安定な経済情勢によって受注難に苦しむ日本の造船所にとっても、今回の受注獲得が起爆剤となることが期待されている。三菱重工および本船建造に携わる関連企業の関係者一同へエールを送りたい。
※この記事は、JOI機関誌「海外投融資」の『ワールドレポート(JBIC海外駐首席が紹介する日系企業の現地での取り組み)』コ
ーナーに掲載されたものです。