[東京 28日 ロイター] -銀行部門でのレバレッジの積み上がりを抑制する「レバレッジ比率規制」をめぐり、現在3%と想定されている基準の引き上げを求める議論が国際的に高まってきた。
規制導入は2018年の見通しだが、米英の主張に沿って厳しい規制になれば、日本の大手行は資本政策を見直す必要性が生じかねない。増配や自社株買いなどの株主還元が進めにくくなる可能性もあり、邦銀にとっては「板挟み」の悩ましい局面になりそうだ。
ある主要行の首脳は、アベノミクス下の株高による業績好調の最中にありながら、「正直困っている」と表情を曇らせる。株主還元への期待が高まっている中、「決算では何らかの方向性を説明する必要がある。だが、それまでに(レバレッジ)規制が固まるわけではない」からだ。
銀行のレバレッジ比率規制は、「エクスポージャー」(オンバランス資産項目とそれ以外のオフバランス資産項目の合計)に対し、主に普通株式で構成される「普通株式等Tier1」を一定比率で確保するよう求める指標だ。バーゼル銀行監督委員会により、先に段階導入を始めた自己資本比率規制「バーゼルIII」を補う目的で、枠組みの議論が進められている。
バーゼル委は、規制上の基準を3%と想定しており、15年から銀行レベルでの比率の開示を始める。最終的な枠組みを固めるのは17年前半。同委は18年に、金融機関の自己管理や当局の監督行政での単なる参考指標ではなく、規制水準を割り込めば早期是正措置などの対象にすることも視野に入れている。
規制値が3%で決着するなら、各行のレバレッジ比率はすでに安全圏にあるとみられる。13年9月末時点の資産に対する資本の比率は、三菱UFJフィナンシャル・グループ(8306.T)は4.95%。同じく三井住友フィナンシャルグループ(8316.T)は4.98%、みずほフィナンシャルグループ(8411.T)は3.78%。
メリルリンチ日本証券の大槻奈那アナリストは、邦銀3行のエクスポージャー規模は「オンバランス資産の1割増し程度」と分析しており、オフバランス分を加味した上でも、各行それぞれ3%を上回っているとみる。
ところが、国際会議の場などで、英米を中心に基準を4─6%程度に引き上げてはどうかとの意見が出始めた。自ら規制強化を進めている英米は、自国金融機関だけが国際競争で不利にならないよう、国際規制にも「強化論」を持ち込む姿勢を強めている。世界の投資家は邦銀にも、英米の銀行と同等の厳しい基準を満たすよう期待する可能性もある。
仮に基準が5%程度に引き上げられるとすれば、現時点で邦銀は基準を満たせていないことになる。規制値に対し「0.5─1%程度の余裕が欲しい」(別の主要行幹部)となると、なおさら資本を積み増す必要も出てくる。例えば三菱UFJFGの資産は240兆円規模ある。レバレッジ比率を1%引き上げるだけでも、各行の資産規模によって、自己資本で1.5─2.5兆円相当の積み増しが必要だ。
日本の金融庁は「貸し渋り・貸しはがしなど金融仲介機能の低下は避けなければならない」との考えから、過度な資本規制強化には慎重な立場だ。ただ、国際会議の場で、こうした慎重論がどれほどの勢力になるかは予断を許さない。
BNPパリバ証券の鮫島豊喜アナリストは「レバレッジ比率の基準引き上げの可能性が生じていることが、銀行の株主還元に現時点で大きな足かせになるとは思わない」とし、2014年は「メガバンクの株主還元が強化される年になるだろう」と指摘する。
市場の期待は高まるが、邦銀はリーマン・ショック前に、株主還元を進めたことが裏目となり、その後の資本規制に対応する上で増資の規模が当初の想定以上に拡大した経緯がある。「規制の枠組みが固まるまで、資本政策には慎重さも求められる」(金融庁幹部)との声もある。先の主要行首脳は「議論の行方を注視していく」と話していた。
*平田紀之 浦中大我 取材協力:江本恵美 編集:北松克朗