電気自動車(EV)の電池市場を中国勢が席巻している。寧徳時代新能源科技(CATL)は創業7年目で世界首位に立ち、政府の外資排除策と規模の力を生かして急膨張を続ける。同3位の比亜迪(BYD)などを含む中国勢のEV世界シェアは6割超。2019年には中国が自動車メーカーに一定量のEV製造を義務付け、本格的なEV時代を迎えるが、国家戦略で動く中国勢が今や覇権を握ろうとしている。
CATLは国内外の自動車メーカ 5月中旬。中国南部の小都市、福建省寧徳市を訪れると、建物の中にトヨタ自動車の技術者らが入っていく姿があった。「この1年間で数十回。トヨタなどの日本や欧米の大手メーカーが頻繁に訪れるようになった」(36歳の女性従業員)。それが17年、世界最大手の車載用電池メーカーとなったCATLの本社だ。
辺りは本社以外にほぼ何もない。道路もホコリっぽい中国の典型的な田舎町。そんな所に今、世界の車メーカーが引き寄せられるのはなぜか。「EV用の電池では早くも勝負がついたと感じ、最大手で資金力もある中国企業のCATLに今後の電池供給を任せようと決めた」
電気自動車(EV)の電池市場を中国勢が席巻している。寧徳時代新能源科技(CATL)は創業7年目で世界首位に立ち、政府の外資排除策と規模の力を生かして急膨張を続ける。同3位の比亜迪(BYD)などを含む中国勢の世界シェアは6割超。2019年には中国が自動車メーカーに一定量のEV製造を義務付け、本格的なEV時代を迎えるが、国家戦略で動く中国勢がはや覇権を握ろうとしている。
5月中旬。中国南部の小都市、福建省寧徳市を訪れると、建物の中にトヨタ自動車の技術者らが入っていく姿があった。「この1年間で数十回。トヨタなどの日本や欧米の大手メーカーが頻繁に訪れるようになった」(36歳の女性従業員)。それが17年、世界最大手の車載用電池メーカーとなったCATLの本社だ。
辺りは本社以外にほぼ何もない。道路もホコリっぽい中国の典型的な田舎町。そんな所に今、世界の車メーカーが引き寄せられるのはなぜか。「EV用の電池では早くも勝負がついたと感じ、最大手で資金力もある中国企業のCATLに今後の電池供給を任せようと決めた」(日系メーカー幹部)ことが背景にある。
以前は違った。トヨタなど世界の車メーカーは、中核技術の電池は内製するか、技術優位にあった日本や韓国の大手電池メーカーの供給に頼っていた。だが「その戦略が通用しなくなり始めた」と、中国の車市場に詳しいみずほ銀行の湯進・主任研究員は指摘する。
背景には電池の製造技術がこの数年で急速に進歩し、液晶パネルや太陽電池と同様に「装置産業化」が著しくなったことがある。大量に製造し、資金力のある企業がさらに有利となり、技術優位にあった日韓勢も厳しくなった。自動車部品最大手、独ボッシュも2月に投資負担が重いとして電池事業の縮小を決めた。
CATLは11年創業の若い企業。米アップルなどに電池を供給していたTDKの携帯電話向け電池子会社から分離・独立して誕生し、車載電池を手掛けるようになった。
CATLはボッシュや独コンチネンタル、仏ヴァレオなど世界の部品大手から技術者を大量にスカウトして他社に差をつけ、足場を固めた。関係者は「ボッシュ出身者だけで20人いる」と話す。
さらに中国政府と組み、海外で活躍する超一流の技術者を高待遇で中国に迎え入れる「千人計画」で、電池研究の権威の一人のロバート・ガリエン氏を米国から最高技術責任者(CTO)に迎え入れた。「国家と二人三脚で作り上げたメーカー」と評される。
独BMWの高級多目的スポーツ車(SUV)への供給を通じ、BMWから電池技術を吸収できたことも成長に弾みをつけた。現在、欧米を中心に世界18社と電池で協力するメーカーとなり、今後の海外でのEV市場拡大も成長の追い風になる。
4月には深圳証券取引所への上場申請が許可された。上場で2千億円以上の資金を調達し、新工場建設を計画。17年の電池
出荷実績は、
16年比で約2倍の12ギガワット時に急拡大したが、20年には50ギガワット時(EV200万台弱分に相当)に拡大する。
CATLとともにけん引役となっているBYDは、車載電池とEVをともに手掛ける。中国のEVの先駆け的な存在で、国内市場首位に立つ。
19年からのEV製造の義務付けでは、基準に届かないメーカーは基準を満たしたメーカーから「クレジット」と呼ぶ枠を購入する。BYDは当初の3年間だけで少なくとも140億元(約2400億円)の利益を手にするという試算もある。資金力を生かし、CATLとともにさらに他メーカーを引き離しそうだ。
(寧徳〈福建省〉=中村裕)
以前は違った。トヨタなど世界の車メーカーは、中核技術の電池は内製するか、技術優位にあった日本や韓国の大手電池メーカーの供給に頼っていた。だが「その戦略が通用しなくなり始めた」と、中国の車市場に詳しいみずほ銀行の湯進・主任研究員は指摘する。
背景には電池の製造技術がこの数年で急速に進歩し、液晶パネルや太陽電池と同様に「装置産業化」が著しくなったことがある。大量に製造し、資金力のある企業がさらに有利となり、技術優位にあった日韓勢も厳しくなった。自動車部品最大手、独ボッシュも2月に投資負担が重いとして電池事業の縮小を決めた。
CATLは11年創業の若い企業。米アップルなどに電池を供給していたTDKの携帯電話向け電池子会社から分離・独立して誕生し、車載電池を手掛けるようになった。
CATLはボッシュや独コンチネンタル、仏ヴァレオなど世界の部品大手から技術者を大量にスカウトして他社に差をつけ、足場を固めた。関係者は「ボッシュ出身者だけで20人いる」と話す。
さらに中国政府と組み、海外で活躍する超一流の技術者を高待遇で中国に迎え入れる「千人計画」で、電池研究の権威の一人のロバート・ガリエン氏を米国から最高技術責任者(CTO)に迎え入れた。「国家と二人三脚で作り上げたメーカー」と評される。
独BMWの高級多目的スポーツ車(SUV)への供給を通じ、BMWから電池技術を吸収できたことも成長に弾みをつけた。現在、欧米を中心に世界18社と電池で協力するメーカーとなり、今後の海外でのEV市場拡大も成長の追い風になる。
4月には深圳証券取引所への上場申請が許可された。上場で2千億円以上の資金を調達し、新工場建設を計画。17年の電池出荷実績は、16年比で約2倍の12ギガワット時に急拡大したが、20年には50ギガワット時(EV200万台弱分に相当)に拡大する。
CATLとともにけん引役となっているBYDは、車載電池とEVをともに手掛ける。中国のEVの先駆け的な存在で、国内市場首位に立つ。
19年からのEV製造の義務付けでは、基準に届かないメーカーは基準を満たしたメーカーから「クレジット」と呼ぶ枠を購入する。BYDは当初の3年間だけで少なくとも140億元(約2400億円)の利益を手にするという試算もある。資金力を生かし、CATLとともにさらに他メーカーを引き離しそうだ。*日経(寧徳〈福建省〉=中村裕)