バニラの価格が2年連続で急騰しており、英アイスクリーム業界は青ざめている。1キロあたり約600ドル(約6万6000円)とあって、今やバニラは銀より高い。
英北西部チェシャー・ナントウィッチ近郊にあるスナグベリーズ・アイスクリームは、3人姉妹が経営する。忙しいときには週5トン分のアイスクリームを家族の農場で作り出す。40種類のフレーバーのうち、約3割がなんらかの形でバニラ・エキストラクトを使用するが、バニラの仕入先に払う金額は以前の30倍に跳ね上がった。
「本当に値上がりしているので、去年は1年分を先物買いすることにした」と、アイスクリーム作りの経営面を担当するクレオ・サドラーさんは話す。「経費を吸収できるか、その時点で判断しなくてはならなかった。最終的にはうまくいったものの」。
先物買いをしたおかげで、サドラーさんたち姉妹は今年の夏の分のバニラは確保済みだ。アイスクリームの値段も据え置きにできる。
価格急騰の背景
世界のバニラの75%以上は、アフリカ大陸南東沖にあるマダガスカル島で栽培されている。
農産物取引の情報サービス「IEG Vu」のアナリスト、ジュリアン・ゲイル氏は、「価格高騰の主な理由は、昨年3月にマダガスカルを襲ったサイクロンだ。農園の多くが被害を受けた。そろそろ価格も落ち着くと期待されたが、需要が非常に高いため、価格が高止まりしている」と話す。
<世界最大のアイス市場はどこか? 昨年世界で消費されたアイスクリームは130億リットル。世界最大のアイス消費国は中国で、消費量は33億リットルだった。1人当たりの消費量が多かったのはノルウェーで、1人当たり年間9.8リットル。伸び率が最も高かったのはインドで、年率13%成長している(出典:ミンテル)>
アイス大量消費国の多くでは、従来通りのカートンに入ったアイスの需要が減っている。消費者が砂糖含有量を懸念しているのと同時に、競争も激しいのだ。
英国の調査会社ミンテルの市場調査によると、世界のアイスクリーム市場の売り上げは2015年の156億リットルから、昨年は130億リットルまで減った。だからこそ、メーカーはこぞってチャイナタウン・アイスクリームファクトリーなどの店の売れ行きを慎重に見守っているのだ。
代用品として使われる人工化合物は、油や針葉樹パルプの廃液などから抽出する。天然バニラの価格高騰を抑えるため、今後は代用品の利用がさらに広まるものとみられる。香料としてのバニラは、バニラの花から抽出される。バニラの花は寿命が短く繊細なため、香料としてはサフランに次いで世界で2番目に貴重で高価だ。
「他の主な生産地はパプアニューギニア、インド、ウガンダ」だとゲイル氏は説明する。「世界中に出荷されるが、大規模なアイスクリーム業界を抱える米国にたくさん輸出される」。アイスクリームのほか、甘い食べ物やアルコール、香水や化粧品など、様々なものにバニラ香料は使われる。
天然バニラ・エキストラクトは濃厚な茶色い液体だ。食品加工業者はほかに、アイスクリームでも見かける小さい黒い粉末のバニラ・パウダーも使うが、この価格も3倍に急騰している。代用品として使われる人工化合物は、油や針葉樹パルプの廃液などから抽出する。天然バニラの価格高騰を抑えるため、今後は代用品の利用がさらに広まるものとみられる。
ニューヨークのチャイナタウン・アイスクリームファクトリーは40年にわたってエキゾチックなフレーバーを売ってきた。最近は客の関心が高まっていると感じている。
オーナーのクリスティーナ・サイドさんは、中国風のアイスを試そうと、しばしば20人ぐらいの客が列をなしているという。あずきや煎りゴマ、タロイモ(サツマイモの一種)味などを提供している。
この店を立ち上げた両親は、中国からの移民だ。クリスティーナさんは、その時よりも米国人がこのような味を受け入れる準備ができていると考えている。「父は多くの味の先駆者でした。当時はみんな、マンゴーや抹茶が何なのか分かっていませんでした。でも今は、もはや本当に変なものなどありません」
クリスティーナさんは、中国で定番のあずき味がいずれ米国でも主流になると予想している。国のアイスクリーム店では今や、ナッツやハチミツがかけられたペルシャ風のサフラン、オレンジの花、ローズウォーター味や、インド風のマサラチャイ、パイナップル味、クルフィなどのアイスクリームを提供している。
(英語記事 Vanilla price rise proves chilling for ice-cream makers)