『恐怖の時間』(64)(2011.7.1.神保町シアター)
原作はエド・マクベインの87分署シリーズの『殺意の楔』。87分署シリーズは、学生時代に読みふけっていたので、この映画の存在を知って以来、ずっと見たかったのだが、なかなかかなわなかった。
今回、やっと見られたわけだが、同じくマクベインの『キングの身代金』を原作に、同時期に映画化した黒澤明の『天国と地獄』(63)同様、原作の設定だけを借りて日本(東宝)流にアレンジしていた。例えば、原作では犯人は女で、恋人は獄死したのだが、この映画では設定を変えている。
麻薬取引の現場で、恋人(田村奈巳)を山本刑事(加山雄三)に射殺された男(山崎努)が、恨みを晴らすために、拳銃とニトログリセリンと称する液体の入ったビンを持って渋谷・宮益坂署の刑事部屋に立てこもる。
ところが肝心の山本は外出中だった。たてこもり犯と部屋にいた4人の刑事(志村喬、佐田豊、土屋嘉男、黒部進。おー東宝映画!)の緊迫感あふれる丁々発止のやり取りが描かれる。
山本はいつ戻るのか、果たしてニトロは本物なのか…。刑事部屋という限られた場所で繰り広げられる舞台劇のような心理戦という点では、ウィリアム・ワイラーの『探偵物語』(51)をほうふつとさせる。
面白いのは、外にいる山本が、具合の悪い妻(星由里子)に付き添って飯田橋の警察病院に行き妻の妊娠を知る、射殺した女の家がある五反田(昔の池上線の車両がちらっと映る)に焼香に行く、別の署で取り調べを受けるなど、いろいろあってなかなか刑事部屋に戻れないようにしているところだ。閉ざされた刑事部屋と外を歩き回る山本の対照にも妙味がある。
監督の岩内克己は、東宝の専属で「若大将」シリーズなどを撮った人。この映画では、若大将と澄ちゃんに新婚夫婦を演じさせているのも面白い。ショートカットの星由里子がチャーミングだ。
岩内は、鈴木英夫の弟子筋にあたるとかで、この映画ではなかなか手堅い演出を発揮。90分で収める力量もたいしたものだ。渋谷、飯田橋、五反田などの東京オリンピック当時の風景が見られるのも楽しい。
『87分署』シリーズ
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/adb1469cccf6de127f57d8251638d74d