『バッシング』(05)(2006.3.15.)
堂々めぐり
渋谷で、イラクでの日本人人質事件のその後を描いた『バッシング』の試写。
人質となった女性をモデルに、帰国後に彼女が受けた批判や中傷、差別の嵐(だからこのタイトル)を描いているのだが、ヒロイン自体も一種の問題児のように描かれているためか、どちらにも感情移入ができず、一体何が、誰が悪いのか? という思いが強くなり、後味が悪いことこの上ない。
恐らくこれは、小林政広監督がわざと使った手法なのだろうが、これではバッシングを浴びせた社会が悪いのか、彼女自体の行動や発言に問題があるのかの堂々めぐりにしかならない。寒々とした北海道の風景、主演の占部房子の屈折した演技などに見るべきところはあるのだが…。
という困った印象だったので、その監督へのインタビューの話があった時はいささか戸惑った。ところが、ご自宅に伺い、いざ話を聞いてみると、映画好きの人のいいおっちゃんみたいなところがあって、映画談議に花が咲いた。人は先入観で見てはいけないと、改めて教えられた気がして、反省したことを覚えている。
【インタビュー】『春との旅』小林政広監督(2010.4.8.)
『春との旅』(10)の小林政広監督にインタビュー取材。映画の内容から、もっと尖った人かと勝手に思っていたのだが、実際に面と向かって話してみると、とてもソフトな感じで、この人も筋金入りの映画ファンなんだなあと感じるところが多々あった。
今回の『春との旅』は小津安二郎の『東京物語』(53)やジュゼッペ・トルナトーレの『みんな元気』(90)をほうふつとさせる家族の問題を絡めたロードムービーだが、祖父(仲代達矢)と孫娘(徳永えり)の旅という点がユニーク。
仲代が絶品の演技を見せるが、ほかにも大滝秀治、菅井きん、淡島千景ら大ベテランが健在ぶりを示したところも魅力の一つ。脚本家出身の監督らしく含蓄のあるセリフも多かった。
『映画監督小林政広の日記』(キネマ旬報社)(2010.4.16.)
『春との旅』のインタビュー取材の際に頂いた『映画監督小林政広の日記』を読了。映画を作りながら、あるいは日々の生活の中から湧き上がってくる、ぼやき、怒り、嘆き、悲しみ、喜びが正直に綴られていて面白かった。
自分も含めて、ものを表現しようとする人間は、どんな状況下でも、それを客観的に眺めているもう一人の自分がいるということか。小林作品常連の香川照之のあとがきが秀逸だった。