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映画の王様

映画のことなら何でも書く

小林政広監督の思い出

2022-09-07 13:24:19 | 映画いろいろ

『バッシング』(05)(2006.3.15.)

堂々めぐり

 渋谷で、イラクでの日本人人質事件のその後を描いた『バッシング』の試写。

 人質となった女性をモデルに、帰国後に彼女が受けた批判や中傷、差別の嵐(だからこのタイトル)を描いているのだが、ヒロイン自体も一種の問題児のように描かれているためか、どちらにも感情移入ができず、一体何が、誰が悪いのか? という思いが強くなり、後味が悪いことこの上ない。

 恐らくこれは、小林政広監督がわざと使った手法なのだろうが、これではバッシングを浴びせた社会が悪いのか、彼女自体の行動や発言に問題があるのかの堂々めぐりにしかならない。寒々とした北海道の風景、主演の占部房子の屈折した演技などに見るべきところはあるのだが…。


 という困った印象だったので、その監督へのインタビューの話があった時はいささか戸惑った。ところが、ご自宅に伺い、いざ話を聞いてみると、映画好きの人のいいおっちゃんみたいなところがあって、映画談議に花が咲いた。人は先入観で見てはいけないと、改めて教えられた気がして、反省したことを覚えている。


【インタビュー】『春との旅』小林政広監督(2010.4.8.)

 『春との旅』(10)の小林政広監督にインタビュー取材。映画の内容から、もっと尖った人かと勝手に思っていたのだが、実際に面と向かって話してみると、とてもソフトな感じで、この人も筋金入りの映画ファンなんだなあと感じるところが多々あった。

 今回の『春との旅』は小津安二郎の『東京物語』(53)やジュゼッペ・トルナトーレの『みんな元気』(90)をほうふつとさせる家族の問題を絡めたロードムービーだが、祖父(仲代達矢)と孫娘(徳永えり)の旅という点がユニーク。

 仲代が絶品の演技を見せるが、ほかにも大滝秀治、菅井きん、淡島千景ら大ベテランが健在ぶりを示したところも魅力の一つ。脚本家出身の監督らしく含蓄のあるセリフも多かった。


『映画監督小林政広の日記』(キネマ旬報社)(2010.4.16.)

 『春との旅』のインタビュー取材の際に頂いた『映画監督小林政広の日記』を読了。映画を作りながら、あるいは日々の生活の中から湧き上がってくる、ぼやき、怒り、嘆き、悲しみ、喜びが正直に綴られていて面白かった。

 自分も含めて、ものを表現しようとする人間は、どんな状況下でも、それを客観的に眺めているもう一人の自分がいるということか。小林作品常連の香川照之のあとがきが秀逸だった。
  

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『ビースト』

2022-09-07 09:45:53 | 新作映画を見てみた

『ビースト』(2022.9.6.東宝東和試写室)

 妻を亡くした医師のネイト・ダニエルズ(イドリス・エルバ)は、2人の娘との関係を修復するため、妻と出会った思い出の地である南アフリカへ長期旅行へ出掛ける。

 現地で狩猟禁止保護区を管理する旧友の生物学者マーティン(シャルト・コプリー)と再会し、広大なサバンナに出かけたネイトたちだったが、そこには密猟者の魔の手から生き延び、人間に憎悪を抱くようになった凶暴なライオンが潜んでいた。ライオンに遭遇したネイトは、愛する娘たちを守るために牙をむく野獣に立ち向かっていく。

 アフリカの広大なサバンナを舞台に、凶暴なライオンに襲われた一家の父親が、娘たちを守るために戦う姿を描いたサバイバルアクション。監督はアイスランド出身のバルタザール・コルマウクル。

 父と娘の絆の回復劇と動物パニックを融合させているが、製作側は「ライオン版の『クジョー』」を狙ったのだという。確かに、スティーブン・キング原作の『クジョー』(83)は狂犬病になったセントバーナードが人間を襲う話で、主人公の母と子は、この映画と同じように、車の中に閉じ込められていた。

 この映画のビースト=ライオンは、実物ではなくCGだが、ちょっとちゃちな印象を受ける。それに彼が狂うのは、ハンターたちの密猟が原因で、いわば彼も被害者なのだから、いくら暴れても、それほど憎々しげには見えないところがあるのだ。

 そこがこの映画のちょっと弱いところで、同じくユニバーサル製作の『ジョーズ』(75)との違いだ。人間の罪が原因という意味では、(意図的に?)長女がTシャツを着ていた『ジュラシック・パーク』(93)の方が近いかもしれない。

 とはいえ、94分に手堅くまとめて、それなりに面白く見せたところは評価したいと思う。

 主人公の旧友の生物学者マーティンを演じたシャルト・コプリー。どこかで見たことがあると思ったら、『第9地区』(09)の主人公を演じた俳優だった。今回は、舞台が南アフリカということもあり、監督のたっての希望で出演が実現したのだという。


『第9地区』(09)(2010.8.15.)

 舞台となった南アフリカ共和国でかつて行われていたアパルトヘイト政策が反映されたストーリー。黒人対白人の人種問題を、人間対エイリアンに置き換えて描いている。あり得ない出来事を、ドキュメンタリー風、あるいはワイドショーのリポート風に見せるアイデアが秀逸。グロテスクな描写も戯画的だから笑える。腕だけが怪物に…という主人公(シャルト・コプリー)の姿に、お笑いのモンスターエンジンを思い出す。


『クジョー』(83)(1984.5.30.自由が丘武蔵野推理劇場)

 監督は『アリゲーター』(80)のルイス・ティーグ。息子と共にセントバーナードのクジョーに襲われる母親役に『E.T.』(82)のディー・ウォーレス、クジョーの飼い主に名脇役のエド・ローター。

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鈴木英夫特集『不滅の熱球』『その場所に女ありて』

2022-09-07 08:02:03 | 映画いろいろ

『不滅の熱球』(55)

 伝説の名投手・沢村栄治といえば、池部良が沢村を演じた鈴木英夫監督の『不滅の熱球』(55)がある。戦死した沢村が、英霊となって後楽園球場のマウンドに戻ってくるラストシーンが切ない映画だ。妻役は司葉子。池部は、野球音痴だったが、沢村に失礼があってはいけないと思い、足を高く上げるフォームを、一生懸命練習したのだという。

 この映画の脚本は、黒澤明の映画で有名な菊島隆三が書いているのだが、彼はこの映画の他にも、後楽園球場での巨人対南海戦が映る『野良犬』(49)、志村喬がプロ野球の監督を演じた『男ありて』(55)の脚本を書き、『鉄腕投手 稲尾物語』(59)の原作、構成も担当している。多分無類の野球好き。日本の野球映画を語る時には欠かせない存在だ。


『その場所に女ありて』(62)

 広告業界を舞台に、男社会に果敢に挑むキャリア・ウーマンの夢と挫折を描いた、鈴木英夫監督の女性映画。広告代理店同士の熾烈な戦いの中で葛藤する女性たちを、リアルかつドライなタッチで映し取っている。クールな知性を漂わせる司葉子が素晴らしい。

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「BSシネマ」『動乱』(『叛乱』)

2022-09-07 07:01:47 | ブラウン管の映画館

『動乱』(80)(1981.2.1.日曜洋画劇場)

 二・二六事件を背景に、時代に翻弄されながらも信念を貫こうとする寡黙な軍人とその妻の愛を描く。昭和7年、陸軍仙台連隊の宮城大尉(高倉健)は、身売りされる姉の薫(吉永小百合)を救おうと脱走した部下の溝口(永島敏行)を弁護するが、溝口は銃殺刑となる。やがて五・一五事件によって軍の対立が激化、宮城は、脱走兵を出した責任を取って朝鮮へ異動するが、そこで芸者として働く薫と再会する…。

 2部構成の大作だが、何とも長く感じた3時間だった。話のテンポが遅く、見ていて疲れた。この映画が興行的にこけたのも分かる気がする。例えば、『二百三高地』(80)に見られたような、見る者を引き付けるエネルギッシュな悲愴感がなく、なかなか映画に入り込めない。故に、ただの古めかしいものに見えてしまうところがあるし、健さんが演じた主人公の宮城の人物像もしっくりこない。 

 その一方、二・二六事件を起こした青年将校たちを、時節に流されてしまった悲劇のヒーローのように描き、われわれがこれまで彼らに対して抱いてきたイメージとは違ったものを感じさせるし、軍隊の上層部や天皇という、見えない力に対する憤りも抱かせる。

 だから、クーデターを起こさずにはいられなかった、袋小路に追いつめられた彼らの姿を、現代の行き場を失った者たちと重ね合わせるような描き方をすれば、全く違った印象を与えられたのでは、と思った。 

『叛乱』(54)(1981.2.26.)

 今日は2月26日ということで、二・二六事件を扱っためったにお目にかかれないような旧作が放映された。先頃見た『動乱』同様、時代錯誤は否めないが、好むと好まざるとにかかわらず、戦争の波にのまれていった日本を象徴するこの事件を、渋い男優陣を使って、一貫して写実的に描いた佐分利信監督(新発見!)による力作であった。

 ラスト、「天皇陛下万歳」を叫びながら次々に銃殺されていく将校たちを横目に、2人の思想家がこんな会話を交わす。北一輝(鶴丸睦彦)「私たちも天皇陛下万歳をやりますか」、西田悦(佐々木孝丸)「私はやりません」。このやりとりは、象徴的であり、重い一言として映った。

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鈴木英夫特集『悪の階段』

2022-09-07 00:17:19 | 映画いろいろ

『悪の階段』(65)(2006.3.30.)

実は女が一番怖い

 鈴木英夫監督作。4人組の強盗団(リーダーの知能犯は山崎努、金庫破りは西村晃と久保明、そして運転手は加東大介という何ともクセのあるメンバー)が、大会社の金庫から4千万円を強奪。分配はきちんと4等分(1千万ずつ)と決め、一見完全犯罪が成立したかにみえたが…。

 と、ストーリーは単純だが、この後、強奪金を隠した地下室の金庫を舞台に、お決まりの金と欲に目がくらんだ仲間割れが起こり、一種の密室劇が展開される。

 けれども彼らの行動はどこか滑稽に映り、佐藤勝の音楽がさらにコミカルな味を引き立てる。多分このへんの演出が鈴木英夫の才なのだろう。山崎の情夫役で団令子が絡むところも、なかなか面白かった。実は女が一番怖いのだ。当たり前のことだが、やっぱりこの頃の映画は、今の2時間ドラマよりもずっと良くできている。

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