田中雄二の「映画の王様」

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桁外れの脚本家、橋本忍

2018-07-20 08:52:59 | 映画いろいろ
脚本家の橋本忍が亡くなった。100歳というから大往生である。



 橋本脚本といえば、まずは、『羅生門』(50)『生きる』(52)『七人の侍』(54)『生きものの記録』(55)『蜘蛛巣城』(57)『隠し砦の三悪人』(58)『悪い奴ほどよく眠る』(60)『どですかでん』(70)と、計8本の黒澤明監督作が挙がるだろう。

 脚本の師匠である伊丹万作への敬愛、黒澤への愛憎がにじみ出た著書『複眼の映像 私と黒澤明』は、黒澤、橋本、小国英雄、菊島隆三らによる、壮絶なまでの脚本作りの現場が紙上で再現されており、興味深く読んだ。特に、自分が『羅生門』のラストに抱いた違和感に対する答えとも取れる記述があり、胸のつかえが下りた。

 そして、もし『影武者』(80)が当初の予定通りに、監督黒澤明、脚本橋本忍、撮影宮川一夫、音楽佐藤勝、主演勝新太郎、若山富三郎で撮られていたら…とよく夢想したものだが、この本を読むと、それは初めから実現不可能だったことがよく分かり切なくなった覚えがある。

 次は、『張込み』(58)『黒い画集 あるサラリーマンの証言』(60)『ゼロの焦点』(61)『霧の旗』(65)『影の車』(70)『砂の器』(74)と続いた松本清張原作の脚本化がある。中には大胆に改変し、原作を超えたと思えるものも少なくない。

 その流れは、『真昼の暗黒』(56)『白い巨塔』(66)『日本のいちばん長い日』(67)『首』(68)といった社会派や実録映画にも通じるものがあるだろう。

 また、『切腹』(62)『仇討』(64)『侍』(65)『大菩薩峠』(66)『上意討ち 拝領妻始末』(67)では、時代劇の中に、現代にも通じる“不条理”を描き込んだ。他に正統派の『風林火山』(69)もある。

 後年は、『日本沈没』(73)『八甲田山』(77)『八つ墓村』(77)といった大作を手掛け、それぞれの奥に、民族論、自然の脅威、血の怨念といったテーマを潜ませた。

 こうして並べてみると、改めて、桁外れの脚本家だったんだなあと思う。学生の頃、ちょっとシナリオをかじった際に、テレビドラマ「私は貝になりたい」(58)の脚本を教材として読んだことも懐かしい。

折しも、国立映画アーカイブで『羅生門』『蜘蛛巣城』『隠し砦の三悪人』などが上映される。
http://www.nfaj.go.jp/exhibition/essential201807/

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