『ビースト』(2022.9.6.東宝東和試写室)
妻を亡くした医師のネイト・ダニエルズ(イドリス・エルバ)は、2人の娘との関係を修復するため、妻と出会った思い出の地である南アフリカへ長期旅行へ出掛ける。
現地で狩猟禁止保護区を管理する旧友の生物学者マーティン(シャルト・コプリー)と再会し、広大なサバンナに出かけたネイトたちだったが、そこには密猟者の魔の手から生き延び、人間に憎悪を抱くようになった凶暴なライオンが潜んでいた。ライオンに遭遇したネイトは、愛する娘たちを守るために牙をむく野獣に立ち向かっていく。
アフリカの広大なサバンナを舞台に、凶暴なライオンに襲われた一家の父親が、娘たちを守るために戦う姿を描いたサバイバルアクション。監督はアイスランド出身のバルタザール・コルマウクル。
父と娘の絆の回復劇と動物パニックを融合させているが、製作側は「ライオン版の『クジョー』」を狙ったのだという。確かに、スティーブン・キング原作の『クジョー』(83)は狂犬病になったセントバーナードが人間を襲う話で、主人公の母と子は、この映画と同じように、車の中に閉じ込められていた。
この映画のビースト=ライオンは、実物ではなくCGだが、ちょっとちゃちな印象を受ける。それに彼が狂うのは、ハンターたちの密猟が原因で、いわば彼も被害者なのだから、いくら暴れても、それほど憎々しげには見えないところがあるのだ。
そこがこの映画のちょっと弱いところで、同じくユニバーサル製作の『ジョーズ』(75)との違いだ。人間の罪が原因という意味では、(意図的に?)長女がTシャツを着ていた『ジュラシック・パーク』(93)の方が近いかもしれない。
とはいえ、94分に手堅くまとめて、それなりに面白く見せたところは評価したいと思う。
主人公の旧友の生物学者マーティンを演じたシャルト・コプリー。どこかで見たことがあると思ったら、『第9地区』(09)の主人公を演じた俳優だった。今回は、舞台が南アフリカということもあり、監督のたっての希望で出演が実現したのだという。
『第9地区』(09)(2010.8.15.)
舞台となった南アフリカ共和国でかつて行われていたアパルトヘイト政策が反映されたストーリー。黒人対白人の人種問題を、人間対エイリアンに置き換えて描いている。あり得ない出来事を、ドキュメンタリー風、あるいはワイドショーのリポート風に見せるアイデアが秀逸。グロテスクな描写も戯画的だから笑える。腕だけが怪物に…という主人公(シャルト・コプリー)の姿に、お笑いのモンスターエンジンを思い出す。
『クジョー』(83)(1984.5.30.自由が丘武蔵野推理劇場)
監督は『アリゲーター』(80)のルイス・ティーグ。息子と共にセントバーナードのクジョーに襲われる母親役に『E.T.』(82)のディー・ウォーレス、クジョーの飼い主に名脇役のエド・ローター。