ボクシングレヴュー

「TM」はタイトルマッチ、階級名につく「S」はスーパー、「L」はライトの略です。

W世界戦(ウィラポンvs西岡、小林vsロハス)

2001年09月01日 | 国内試合(世界タイトル)
W世界戦のレヴュー。

・WBC世界バンタム級TM 
 ウィラポン・ナコンルアンプロモーションvs西岡利晃

まずは西岡利晃。強豪ウィラポンに再挑戦したわけだが、正直僕は彼が
ここまでやるとは思わなかった。「絶対負ける」と思っていたわけではない。
意外だったのはその積極的な戦いぶりだ。もちろん挑戦者なのだから積極的に
攻めなければ勝てない。しかし前回、初めてウイラポンに挑んだ時の西岡は、
その「挑戦者のボクシング」を全うできなかった。足を使って距離を取り、
リスクを避けながらポイントを奪おうとするも、ウイラポンの堅い守りに
阻まれてか手数が少なく、ほとんど何も出来ずに終わってしまった。

「なぜもっと攻めなかったのか」とか、果ては「臆病者」など、試合後の
西岡に浴びせられたファンの言葉は厳しかった。だからこそ今回、危険を
冒してでも果敢に前に出た西岡の積極性に驚かされたのだ。

無論、ただやみくもに前に出るだけではウイラポンの強打の餌食になってしまう。
あの辰吉を2度倒し、西岡との再戦の前の防衛戦ではランキング1位の挑戦者を
わずか3ラウンドで沈めていることでもそれは明らかだ。

しかし西岡はこの再戦で、ボクシング能力の高さを改めて我々に示した。
あの鉄壁のウイラポンの攻撃をすんでの所でかいくぐり、シャープなジャブを
見事にヒットさせる。ロープに詰まったらスルリと体を入れ替え、自分のパンチを
当てたらすかさずウイラポンの手が届かない距離に移動する。言葉で言うのは
簡単だが、リングの上でそれを実行するのは並大抵のことではない。

あの手堅い攻守で知られるウイラポンが空振りを繰り返し、インターバルでは
息を切らして、明らかに焦りの色が見えた。しかし第7ラウンド、ウイラポンの
右で西岡は目を切ってしまう。一瞬、西岡の弱気の虫が見えたように思えた。
ペースは一気に王者に傾き、このままズルズルと劣勢に陥るかと思われた。

ところがこの日の西岡は違った。後退するどころか自分から攻めて出て、逆に
ウイラポンをぐらつかせて見せたのだ。ピンチのはずが、逆にこの回が西岡の
ベストラウンドでは、と思わせるほどの攻勢でまたしてもチャンスを広げた。
僕は思った。もしこの試合で負けても、西岡が責められることはないだろうと。

惜しむらくは後半、ウイラポンのボディ攻めが効いてきたのか、西岡の攻めが
雑になってしまったことだ。防衛に執念を燃やす王者にそこを突かれ、結果として
引き分けでタイトルは獲れなかった。しかしいい試合だった。ウイラポンの底力も
さすがだったし、西岡のボクシングも見事だった。両者を称えたい。



・WBA世界Sフライ級TM セレス小林vsヘスス・ロハス

この日最後の試合は、セレス小林の初防衛戦。37歳の大ベテラン、
挑戦者のロハスは、過去に2階級制覇を成し遂げている元王者とは言え、
さすがに往年の力はないだろう、つまり小林の初防衛成功は間違いないだろう
というのが、多くの人の見方だった。

その予想を裏付けるかのように序盤、小林はキャリアで上回るロハスを巧みに
コーナーに追い詰め、得意のボディブローをヒットさせていく。これまでKO負け
のないロハスだが、もしかしたら小林がそれを見せてくれるかも・・・。
そんな期待も抱かせるほどの、上々の立ち上がりであった。

しかしロハスの老獪さは、少しも衰えてはいなかった。反則すれすれのホールド、
ローブローなどを織り交ぜながら、徐々に小林のスタミナを奪っていく。

飯田や戸高もそうだったが、スタミナには定評のあるはずの選手が、ロハスと
対戦すると決まって後半にはバテバテになってしまう。自分のスタミナロスを
最小限に抑え、なおかつ相手のスタミナはことごとく奪う。普段ならよけられる
はずのパンチも、疲れてくるとよけられなくなる。決して目を見張るパンチ力や
スピードがあるわけではなく、ロハスの武器はこの「したたかさ」なのである。

小林もこのしたたかさに苦しめられた。加えて上体が柔らかいロハスにはなかなか
自分のパンチが当たらず、空振りでさらにスタミナを消耗する。しかしそんな
展開の中でも、小林は決して試合を投げず、精一杯のアイディアを振り絞りながら
パンチを振るい続けた。試合終了のゴングが鳴った時、小林はフラフラで、まさに
精魂尽き果てた、といった様子であった。

後半はスタミナの衰えないロハスが優勢に試合を進めていたように見えたので、
正直「こりゃ負けたかな・・・」とも思ったが、判定は僅差で小林の勝利。
見ている方も最後まで気が抜けず、どっと疲れた試合だった。

確かに「快勝」とまでは行かなかったが、ドロドロの試合が得意の老獪なロハスに
粘り勝ちしたという点で価値ある防衛だったと思うし、試合後小林も語っていた
通り、ベテランにボクシングのレッスンを受けたと思えば、今後の小林にとっても
いい経験になるはずだ。なぜなら本来小林も、パワーやスピードではなく試合運び
や駆け引きの上手さが持ち味の選手だからだ。まあとにかく勝ってよかった。


というわけで今回のダブル世界戦では、派手なダウンシーンなどはなかったが、
4人の選手がそれぞれに全力を尽くし、非常に緊張感のあるいい試合が繰り広げ
られた。「KOこそボクシングの華」なんて思っている人には物足りなかった
かもしれないが、僕としては充分楽しめた。