ボクシングレヴュー

「TM」はタイトルマッチ、階級名につく「S」はスーパー、「L」はライトの略です。

WBC世界フライ級TM ポンサクレック・ウォンジョンカムvs内藤大助

2005年10月10日 | 国内試合(世界タイトル)
3年半前、ポンサクレックにわずか34秒でKO負けした内藤だが、
それ以降の戦いによって国内での評価は上がり、いよいよ2度目の
世界挑戦のリングに立つことになった。相手はまたもポンサクレック。
力をつけたとはいえ、総合力の差でやはり内藤不利の予想だ。

ポンサクレックは、多くの関係者にその安定感を絶賛されている、
派手さはないが隙もない攻防兼備の完成度の高いボクサーだ。
内藤でなくとも勝機を見出すのは難しいだろう。事実、内藤が敗れた後にも
本田秀伸やトラッシュ中沼といった国内のトップボクサーたちが
ポンサクレックに挑んだが、その牙城を崩すことは出来なかった。
何より、ここまで実に11度という防衛回数が彼の安定感を物語っている。

しかし、内藤には「何か」を期待させるものがあったのも確かだ。
日本タイトルの防衛戦では24秒でKO勝ち。「世界フライ級における
最短KO負け」と、「日本タイトル戦における最短KO勝ち」という
両極端の記録を持っている男だ。そんな意外性がもしいい方向に
発揮されれば、まさかの一発を生み出すかもしれない。そんな期待感だ。

そして当日。内藤はCCBの懐かしいヒット曲「ロマンティックが
止まらない」で入場。晴れの大舞台にこんなふざけた選曲とは、なかなか
度胸が据わっている。しかも笑顔で、激しいシャドーを見せながらの
入場である。ちょっと意気込み過ぎかなとも思うが、調子は良さそう。
無敗の中野博から王座を奪った、日本タイトル戦の時に似た雰囲気だ。
ますます「何かやってくれるのでは・・・」という期待が高まる。
また、前回は敵地タイでの挑戦だったが、今回は戦い慣れた後楽園ホール。
そういったことも内藤に有利に働くのではないかと思えた。

試合開始のゴングが鳴った。実際、内藤の動きがいい。いきなり
シャープなワンツーを叩きこんでいく。フットワークも軽快だ。
一方のポンサクレックは、王者らしくどっしり構えているようにも
見えるし、少し動きが重いようにも見える。王者は前日の予備計量で
体重をオーバーしていたが、その影響も少しはあるのかもしれない。
いずれにせよ内藤にとっては上々の立ち上がりで、あの悪夢の34秒も
何事もなく過ぎていった。

第2ラウンド。相変わらず内藤は好調だ。ポンサクレックもやや強引に
詰めていくが、内藤の動きについていけず焦っているようにも思える。
ところがこの回中盤、アクシデントが起こる。両者が交錯した直後、
内藤の右目上から激しい出血。ポンサクレックのパンチが当たったようにも
見えたが、レフェリーはバッティングと判断、ポンサクレックに減点。

これ以降、内藤は止まらない血に悩まされながらの戦いを強いられる。
徐々に動きが雑になり、ポンサクレックのプレッシャーに圧される
シーンが目立つようになる。ただでさえ防御の堅い王者に、雑な大振りの
パンチはそうそう当たらない。内藤もよく攻めて健闘しているが、
ポイントを取るまでには至らず、苦しい展開だ。

そして第7ラウンド、一向に血が止まらない内藤の傷を診たドクターと
レフェリーの話し合いの末、とうとう試合がストップされてしまった。
それまでのラウンドの採点の結果、内藤は「7ラウンド負傷判定」と
いう形で敗れたのだった。

振り返ってみると、やはり王者の調子は良くなかった。しかしそれでも
ポイントを奪っていく技術はさすがだ。とはいえ、「うまさ」では
内藤に勝ち目がないのは試合前から分かっていたことだ。惜しむらくは
内藤の負傷だ。傷を気にしながら、あるいは視界をふさがれながらの
戦いのため、序盤のいい動きはすっかり影をひそめてしまった。
また、怪我によって大幅に動きが悪くなってしまった内藤自身にも
問題がなかったとは言えない。焦りを露骨に表情や態度に出してしまい、
そこを王者に突かれたという面もあったからだ。

あのまま怪我がなくラウンドが進んでいれば内藤が勝っていた、
とまで言うつもりはない。むしろ後半に行くにつれ、試合巧者の
ポンサクレックにポイント差をつけられていった可能性が高い。
しかし、1ラウンドの動きから判断すると、怪我がなければ
もっと王者を苦しめていたに違いない。

いずれにせよ、こんな形で終わってしまっては、内藤にとっては
不完全燃焼だろう。勝つにせよ負けるにせよ、自分の持っているものを
最大限に発揮して戦い抜きたかったはずだ。レフェリーとドクターの
話し合いの最中、不安げな顔を浮かべていた内藤の表情が印象に残った。

なお、内藤は試合前から、勝敗に関わらず引退はしないと決めていたという。
それならばぜひ、また世界戦のリングに上がって欲しいものだ。