090)耕起和土

 黄土高原の農民は年中、畑を耕しています。春になって土の凍結が融けると、まず春耕。このころは風が強いので、もうもうと土が舞い上がります。収穫が終わったら今度は秋耕です。作物が育つあいだもしょっちゅう中耕します。
 この地方の農村は機械化はほぼゼロ。ウマ、ラバ、ロバ、ウシなどの役畜を使うのは比較的豊かな平地の農村に限られ、山間や黄土丘陵の貧しい農村では人力に頼るしかありません。たいへんな作業です。
 日本で土をひっくり返すのは、土を和らげると同時に、雑草との闘いの意味が大きいでしょう。雨の少ない黄土高原では雑草はそう生えません。では、なんのため?
 土の毛細管を切って、地中の水分が地表に吸い上げられ蒸発するのを抑えるのだそうです。紀元前1世紀の『氾勝之書』が春耕を重視するのにたいし、6世紀完成の『斉民要術』は秋耕の必要性を強調しています。秋に耕すことで、その年に降った雨をより多く地中に蓄えて凍結させ、翌春の作物の生育に利用するわけですね。なにごとにも長い歴史があります。
 中耕にも技術があります。クワやスキで浅く表土を掘り返し、返す刃の背で土を砕き、表面を軽く圧して薄い土の膜を作るそう。毛細管を切り、土の膜で覆って蒸発を防ごうというわけです。
 地表からの蒸発を抑えることは同時に塩害の防止にもなります。何気なく見過ごしそうなことにも深い意味があるものです。
 (2005年11月15日号)
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