069)農村で娘をもつ(2)

「高見おじちゃんの娘になるんだよ」と大同事務所の武春珍所長が告げると意味はすぐわかったようです。でも感情がついていかなかった。表情が消え、デスマスクのように凍ってしまいました。
 その子の家にいきました。小さなあばら家で、屋根が波うっています。カマドの横の壁の一部を黒く塗って黒板がわりにし、英単語をチョークで書いては消し、書いては消し。裏紙を針と糸で綴じてノート替わりにし、几帳面な小さな字でビッシリ。勉強がすきなんですね。むりやり学校にいかされそれでも勉強しない子がいる一方に、勉強なんて必要ないと親からいわれても、隠れてでもする子がいるのが人間社会。
 寄宿費用を含めて2千元を中学校に託することにしました。出もとはこのレポートの原稿料。
 昨年8月にその村にいくと、あの子が私に飛びついてきたんですよ。ものすごい勢いで! 私と同年の友人なんか、それがうらやましくて個人で奨学基金をつくったくらいです。
 正月に手紙がきました。「絶対に重点大学に入り、日本に留学します。……自分たちの出路は勉強以外にありません」とあります。農村の条件下では困難なことですけど、あの子ならやるかもしれません。そうなったらお金もかかるでしょうけど、楽しみですね。
 大学まで出たら、農村に帰っても仕事はありませんから、農村を捨てることになるかもしれない。それでもしかたないでしょう。
  (2005年3月25日号)
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