1288話)広霊県苑西庄村(5)

1997年のことです。テレビ朝日が「素敵な宇宙船・地球号」シリーズ(トヨタ自動車提供)の番組を私たちの協力地で撮影するが決まり、当然、そのなかに農村生活は欠かせません。黄土高原の切り口として、水がいちばん重要でしょう。

私の頭に最初に浮かんだのは、天鎮県李二烟村です。あそこは村の横の谷底に小さな湧き水があり、村の人はその水を天秤棒で担ぎ上げて暮らしています。

ところが県政府の意見は「撮影は問題ないが、村に泊り込むのはまかりならぬ」ということでした。農村の生活を記録するのに、県城のホテルに泊まって、朝晩通うのでは不都合でしょう。

第2の候補が苑西庄村でした。撮影クルーが広霊県に到着してからも、こちらでもまだゴタゴタしていました。貧しい村をみせたくないのです。

番組の圧巻は(私の勝手な思い込みですが)小学校の前庭に、村の長老たちが集まって、村の水問題を相談する場面です。浅い井戸がつぎつぎに涸れている現状が語られ、機械で掘る深井戸だったら涸れることはないという結論になりました。

この寄り合いをセットしたのは祁学峰ですけど、私は彼となんの相談もしていないのです。私が苑西庄村にしようといったら、彼はすぐにこれは井戸掘りに取り組むつもりだと考えて、そのような場面を設定したんですね。

前話で、わずかな水で4人が交替で顔を湿らせた話をしましたが、それは撮影クルーのうち3人と私とのことです。
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