1336話)私のこどものころ どぶろく

 どぶろく

私の育った村には高見という名字が何軒もありましたので、ふつうは屋号で呼びあいました。私の家はショーチヤです。「ショーチヤのお兄ちゃんはいい子だけど、弟はわるい」というふう。焼酎屋です。数代前まで村内の焼酎をつくっていたそう。残骸の真鍮製の蒸留器が物置に残っていました。

わが家は代々、酒とのたたかいの歴史だったようです。父親が呑んべで、学校にいけなかったので、自分は呑まないで、こどもを学校にやる奇特な人間がでてくる。ところがその子がまた呑んべになり、そのつぎは呑まない人になる。一代交替が多かったようです。

ところがそのリズムがちょっとくるった。私の祖父さんが呑み、父親が呑んだ。おまえもそうだから三代つづきじゃないかと思われるかもしれませんが、そうじゃありません。私は傍系で、長男の兄は呑みません。兄は県の職員で土木屋でしたから、逆だったらよかったのに、とよく言われました。

帰省したときは、父親とよく呑みました。それが兄にはできない、私の唯一の父への孝行だったかもしれません。

けっこうの家がどぶろくをつくっていました。村祭りのまえになるといっせいに作るんですね。すると、税務署から回ってくるんだそう。長い鉄の棒をもってきて、マヤゴエ(堆肥)を突き刺し、「ああ、この家のマヤゴエはいい匂いがするな」なんて。そういうウワサが流れたんですけど、ほんとかどうか知りません。堆肥のなかは温度があって、発酵させるのにつごうがよかったんだと思います。かくすのにも。
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