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1331話)橋本さんを偲んで(続)

もう一回、橋本紘二さんについて書かせてください。東川事務局長が緑の地球ネットワークのFacebookに、2013年8月のツアーに彼が参加したとき、往路の北京の天壇公園で橋本さんが迷子になったことをバクロしました。携帯電話はバスの荷物のなかに置きっぱなしだし、連絡の方法がないまま、ツアーのほかのメンバーは列車で霊丘に向かいました。私は大同で連絡をうけ、ハラハラしていました。

北京の友人たちがいろいろ手を打ってくれましたが、みつかりません。で、「日本大使館に連絡したほうがいいですよ」とアドバイスしてくれました。そのようにすると大使館のIさんが、「どうして彼だけ置きっぱなしにして、みんな行ってしまったんですか?」というので、私は「だって中国でいちばん経験豊富なのが橋本さんだもの」と答えたら、Iさんも納得してくれました。

経験のなかに天鎮県の一事があります。何台もの一眼レフをぶらさげていたために、日本人だとわかったのでしょう。一人のお爺さんに呼び止められました。橋本さんの中国語はピージュウ(啤酒、ビール)だけですけど、言葉の激しさから、戦争中のことだろうな、と見当はついたそう。

お爺さんはだんだん興奮してきて、橋本さんの鼻先に指をつきつけ、口から泡を吹きながら、大声でののしりだしたんだそう。すると周りにたくさんの人たちが集まってきて、その人たちもだんだん興奮するのがわかったそう。

怖かったの?とあとで私がきくと、お爺ちゃんはさほど怖くないけど、周囲の人たちが興奮するのがほんとに怖かった、と答えました。そして、「悪いけど、次回からは北京空港までだれかに迎えにきてもらえないかな」。そこまで怖かったら来るのをやめるのがふつうなんだろうけど、彼はそうしなかった。

大同の青年旅行社のガイドがそこを通りかかったんですね。大勢の人だかりを覗くと、まん中に橋本さんがいる。彼が通訳にはいりました。お爺さんは、自分が6歳のときに親兄弟がみな日本軍に殺され、自分は父親の遺体のしたで生き延びた、そんなことがあったのをおまえは知っているか、6歳の孤児がどうやって生きてきたか、お前に想像できるか、そういってののしっていたというのです。

橋本さんは素直に謝りました。そしたらそのガイドさんがお爺さんに「最近、この県の緑化を助けるために日本人がきているのを知っているか。この人はそのメンバーなんだ」と伝えました。お爺さんは「なんという悪いことをしてしまったのだ」といって、橋本さんのカメラマンベストのポケットというポケットに、ヒマワリやカボチャの種を詰め込んで、釈放してくれたのです。お爺さんは街角でそれを売って生計をたてていました。私はそれをお相伴しながら、橋本さんの話をききました。

それいらい、橋本さんは天鎮県にいくと、そのお爺さんが元気でいるかどうか探しに行きます。お爺さんはお爺さんで、日本人がきているときくと、橋本さんがいるかどうかたしかめにきます。あるとき、橋本さんがそのお爺さんをつれてきたので、昼食の席でいっしょに乾杯しました。そのとき橋本さんに頼まれて、彼のカメラで彼ら二人の写真を撮ったんですよ。何年かあと、彼の家を訪ねたら、その写真を大きく引き伸ばし、額にいれて飾っていました。

戦争中のことが話題になったとき、ツアーの人たちに私はこの話をしたのです。あるとき橋本さんが「高見さん、おれのことを話しているらしいな」というので、私は身構えたんですよ。でも橋本さんは「だけど、いい話だよな」。

もとに戻って、北京で迷子になった話です。そのとき天壇公園に、どこかの国のVIPがやってきたんだそう。で、あの有名な祈年殿の周囲にロープが張られ、一般客は締め出されたました。蒼天のしたの人影のない祈年殿! カメラマン魂がこのチャンスを逃すことを許すはずがありません。彼がいないことに気づかないまま、ツアーの人たちは出口に向かいます。集合場所が入り口とちがうことを、意識に止めているような橋本さんではありません。

知恵を絞って橋本さんは日本大使館にいくことにしました。手元に残っていたお金でタクシーに乗り、つれて行ってもらった。そしたらなんと、大使館が移転していて、どこにいったかわからない。

ここにも人だかりができて、みんなでガヤガヤやっていたんだそう。すると、黒塗りの高級車が停まったというのです。事情をきいて、カーナビで大使館の移転先をたしかめ、そこまで送ってくれたのだそう。なぜ、そんなことが起こったか?中国では、老人と子供はたいせつにされるんですよ。それでやっと連絡がついて、翌日昼前には張永生さんのくるまで霊丘にやってきました。

トップの写真。2013年8月に私が大同で撮影したものです。それをみて橋本さんは「おれの遺影に使うからこれをくれ!」といいました。でも、ちゃんと送ったかどうか記憶にありません。それにしても、こんなに早いとは。

こんな話を書くと、今晩にでも、でてくるかれしれません。それもいいな。枕元に彼のためのビールと私のためのショウチュウを用意するか。
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