029)満開のアンズの花

 呉城郷のアンズの最初の収穫は98年のはずでした。ところがこの年は春の訪れが早く、4月20日すぎから開花がはじまりました。そのまま暖かくなれば問題なかったんですけど、4月末に寒さがぶり返し、着いたばかりの小さな実が凍害で落ちてしまいました。収穫はゼロ。
 皮肉なことにこの年、大同は例外的に気候に恵まれたんですね。周囲の村は豊作の喜びに沸きました。ところが呉城郷は、アンズに切り換えたため、その恩恵を受けられなかった。こんなことがつづいたら、せっかく育ったアンズが切られてしまうんじゃないか。余計な心配まで私はしたんです。
 幸いなことに99年、アンズはちゃんと実りました。大豊作だったんです。一帯は「建国いらい最悪」といわれる大旱魃で、丘陵の村は収穫ゼロだったんですけど、アンズはビクともしませんでした。私もホッとしました。
 その翌年の春です。呉城郷にむかうバスの座席で、私は居眠りをしていました。昼食のビールのせいです。目を覚ますと、黄土一色のはずの丘陵に、湖があるんですね。陽の光をあびて、キラキラ、キラキラと水面が輝いています。
 それがなんと、満開のアンズの花だったんですよ。深さ百メートルもある浸食谷の両側に咲き誇る何十万本ものアンズ。私が書いた『ぼくらの村にアンズが実った』(日経新聞社)の表紙カバーは、そのとき橋本紘二さんが撮影したものです。
  (2003年11月25日号)
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