深夜特急〈2〉マレー半島・シンガポール (新潮文庫)沢木 耕太郎新潮社このアイテムの詳細を見る |
あるいは、彼らも人生における執行猶予が欲しくて旅に出たのかもしれない。だが、旅に出たからといって何かが見つかると決まったものでもない。まして、帰ってからのことなど予測できるはずもない。
「深夜特急(2)マレー半島・シンガポール」沢木耕太郎
旅する者たちのバイブル。「深夜特急」第2巻の舞台は、マレー半島。香港よりも騒々しい街・バンコクや、美しく闊達な娼婦たちの住まう楽園・ペナン。そしてシンガポール……。様々な街を転々と移動する沢木は、しかし香港で得られたような旅の高揚感がないことに気づく。原因は、ジャパゆきさんとしか見てくれない現地人の目や、どの街にも「あの香港」を求めてしまう沢木自身にもあって。だから存外に、本巻では沢木は旅を楽しめていない。
その分、沢木はいろいろ考えてしまう。どうして自分は旅を続けるのか、終着したところでそこから先はどうするのか。数年間の長旅を敢行しているニュージーランドの2人組と出会ったことで、その思いは決定的になる。将来への重い不安。
上記の一文は、ニュージーランドの2人組の旅の行く末に自分自身を重ねた沢木の心情だ。何かが決定されてしまうことを恐れて旅に逃げた沢木の本当の姿が、この一文に表れている。
そういう逃避願望は、僕にもある。一年も二年も旅に出られる身分を羨みながら、現実の仕事やしがらみの中で窒息しそうになっている僕がいる。かつては自由があった。どこへだって行けて、何にだってなれた時期があった。だけどそこで僕は何も選ばず、今こうしてここにいる。学生時代。人生の執行猶予期間をスルーして囚人となった僕には、この先何かあるのだろうか。ふと、そんな暗い思いに囚われた。