はあどぼいるど・えっぐ

世の事どもをはあどぼいるどに綴る日記

ショートソング(1)

2007-10-05 20:31:33 | マンガ
 俺だけじゃなく、歌人というのはほぼ例外なく短歌を始めた頃が最大級に輝いていて、あとはその輝きの残像を追い求めていくしかない。そういう存在なのだ。
 
「ショートソング(1)」原作:枡野浩一 画:小手川ゆあ
 
 産みの苦しみに苛まれる売れっ子歌人・伊賀寛介が主人公……ではない。ハーフで美形で腰が低くて素直だけど童貞で英語が話せなくてファッションセンスのない大学生・国友克夫が主人公だ。
 ある日、同じ研究室の先輩・舞子にデートに誘われた国友。ファッションセンスのなさや自信のなさをガシガシけなされながらのハードなデートのさ中、連れ込まれたのは古いビルの一室の短歌サークル「ばれん」の歌会。本気で互いの歌を批評しあう熱い異空間に戸惑う国友は、慣れない短歌を詠まされた末に、ようやく自分が利用されていることに気がついた。舞子は自分に興味があるのではない。顔だけはいい自分を連れているところを恋人・伊賀に見せつけ、嫉妬させることだけが目的だったのだ。
 当の伊賀は策略の効果てきめんで嫉妬した。だが相手は舞子の男・国友ではなく容姿と文才に恵まれているくせに自覚のない男・国友だ。故に事態は混迷する。国友のことがうらやましくてねたましくてたまらない伊賀は、国友に見せ付けるように舞子とべったり。事あるごとに呼び出しては短歌の作法を教えつつ舞子とべったり。国友が振り回されて苦しむ様に不思議な快感を覚えていく。その感情は恋にも似て……。
 なんとびっくり。小手川ゆあの最新作は短歌がテーマ。原作つきということもあってか、今までの作風を覆すようなエロさとマニアックさを醸し出している。産みの苦しみや短歌への愛という本筋はさておいて、特筆すべきはキャラクターの秀逸さ。完全サドの伊賀。伊賀への強い執着を持つ舞子。AVに出演してまで自費出版本を出した美女・瞳。舞子や瞳に振り回され、さらには伊賀にいたぶられつくしながらも清潔な精神を失わない国友。作中に出てくる短歌の良し悪しはわからないが(プロの作品らしいが)、キャラ同士の絡みを見ているだけでも十二分に楽しめる。良作。