はあどぼいるど・えっぐ

世の事どもをはあどぼいるどに綴る日記

自分の体で実験したい~命がけの科学者列伝~

2007-10-25 18:07:44 | 小説
「自分の体で実験したい~命がけの科学者列伝~」レスリー・デンディ+メル・ボーリング

 ・100度を超す高温部屋でどれだけ耐えられるか
 ・パンや肉を袋や木の筒に入れて丸呑みする消化実験
 ・「笑うガス」を吸った歯科医たち
 ・「死の病原菌」のついたメスを自分に突き刺す男
 ・「死の病」を媒介するが自分の腕を刺すのを待つ男
 ・夜中、ラジウムが緑青色を発するのを見つめる夫妻
 ・炭鉱や海中で「悪い」空気を吸い続ける親子
 ・心臓に初めてカテーテルを入れた男
 ・時速1000キロのマシーンを急停止させる衝撃に挑む男
 ・洞窟でひとり4ヶ月を過ごした女性
 ずらり並んだ衝撃的な10タイトルは、近代に実際にあった「自己実験」。中でも信用に足る記録の残っているものの中から選び抜かれたものばかりである。
 それだけに興味深い。人間がどれだけの高温に耐えられるのか、どれだけの衝撃に耐えられるか、洞窟の中でどれだけの間過ごせるか、といった耐久力を試されるものだけでなく、消化、麻酔、病原菌の媒介、呼吸、放射線、心臓カテーテルといった、医学的にも科学的にも非常に意義のある実験に命を賭けた人たちの熱い生き様が描かれている。挑戦に貴賎はない……といいたいところだが、毒キノコや河豚を初めて「食べてみた」人たちとは一線を隔する信念を感じる。
 どれもこれも「いや死ぬだろそれ」というような境界線を踏み越えてしまった実験揃いだが、本書に登場する主要な人物の中には死者は少ない。だが、当然その背後には無数の屍が転がっている。
 その人たちを駆り立てたものはなんだろう。誇りと信念と自意識と、その他多くの利益をひっくるめて天秤の片側に乗せ、もう片方にはリスクを乗せる。それで吊り合いがとれるのか。とれないとしたらどうしてそこまでしなければならなかったのか。答えはすべて故人の胸の中にあり、知る術はもうない。