はあどぼいるど・えっぐ

世の事どもをはあどぼいるどに綴る日記

トム・ゴードンに恋した少女

2008-10-07 17:39:47 | 小説
トム・ゴードンに恋した少女 (新潮文庫 キ 3-55)
スティーヴン・キング
新潮社

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「トム・ゴードンに恋した少女」著:スティーブン・キング 訳:池田真紀子

 今年9歳になる少女、パトリシア・マクファーランドは、口汚く罵り合う母と兄の諍いを尻目に、森の中に踏み込んだ。ちょっとしたいたずら心から始まった単独行は、しかしパトリシアを森の奥深くへと誘い込んだ。メイン州西部から始まる、実に3200キロもの長さを誇るアパラチア自然遊歩道の懐深くで、たったひとりのサバイバルが始まる。少女に残されたのはリュックに詰めたわずかばかりの飲料水と食料と、ラジオから聞こえるレッドソックスの中継と、ちっぽけな勇気だけだった……。

 以上。説明終わり。
 というとあんまりだが、実際そういうストーリーだ。レッドソックスの抑えの切り札、トム・ゴードンに恋する9歳の少女が、日本とはスケールの違う広大なアメリカの自然の中をさすらう、ただそれだけ。キング本人も述解しているように、「森に女の子1人」というだけの設定から膨らませた小説なのだ。
 だけなのだけど、そこはキング。味付けの仕方が違う。容赦ない自然の猛威がこれでもかと少女を襲う姿は、凄まじいの一言。トレッキングの延長みたいなストーリーを想像しているととんでもない目に遭う(遭った)。
 雷雨、日没、無数の蚊にスズメバチ、体を蝕む細菌と空腹と絶望。
 虫刺されで体中を腫らし、泥をまとうように肌に塗りこみ、金髪とわからぬほど髪が汚れ、10キロ以上も体重が減り、咳き込めば吐血。あまりの辛さにトム・ゴードンと話す妄想に逃げ込むしかなかった少女が、独り会話をしながら森を彷徨う様は、成仏しきれぬ幽鬼がふわふわと漂うのにも似ている。
 少女が何か痛い目に遭うたびに、「あちゃあ」とか「うわあ」なんて呻かずにはいられない。どうか、これを読んでいる子持ちの方々は、山で少女の手を離さぬように。もし自分に子供がいたら、これはたまらんだろうなと思わされるから。
 他に、「森の中から見ているそいつ」というキングならではの素材もある。巡り巡って少女の勇気と生存本能に繋がっているのだが、消化の仕方が面白かった。絵的にも美しいし、マル。

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