野球の国 (光文社文庫)奥田 英朗光文社このアイテムの詳細を見る |
「野球の国」奥田英朗
「空中ブランコ」、「サウスパウンド」の奥田英朗。けれんみあふれる作風が特徴の筆者の旅行記。タイトルにもある通り、野球場巡りがメイン。
服にこだわり、食にこだわり、高級ホテルじゃなきゃダメ、なんていういけ好かない(庶民の僻み根性ですね、はい)男の一人旅……だが面白い。さすがは売れっ子作家、地の分のだけでぐいぐい読ませる。
特筆すべき読みどころは球場の風景かな。晴天の日の、あるいは極寒の日の野球場。そこで躍動する選手たち……はもとより、思い思いに球場で過ごす観客たち、という視点が目新しい。球場にいるのはファンだけではない。野球そのものに興味のない人たちが休日の過ごし方の一環として訪れたりもする。実際に見たことがあるわけではないけど、自由でゆっくりとした時間の流れ方を想起させる記述が良かった。
あとは選手への視点。元中日の今中を何かの機会に見かけた時に、筆者はこんなことを考える。ある1試合、ある一球の名場面を見せてくれただけで、永遠にファンでいられる、野球とはそういうものだと。これ、何かのスポーツに感動したことのある人なら理解できるんじゃなかろうか。わざわざ長嶋や王なんていう例を持ち出す必要もない。記録ではなく記憶に残る試合を見せろ。プロってそういうものだと。そうしたら、あとは死ぬまでファンでいてやる。わかるなあ。やるじゃないか、奥田。今後どんな駄作を連発したとしても、僕はずっとあなたのファンだ。
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